バレンタイン・キッス

「……欲しいモンてコレ?」
「そう」
「なんで?」


 視線の先にあるのは普通のデジカメ。新一が写真にこっているとか、そんな話を聞いたことはない。


「写真やったら別に携帯でも撮れるやろ?」
「そうだけど。もっと綺麗な画質で残しておきたいんだよ。写真も動画も」
「なんの?」


 本気で不思議がっている。そんな顔で平次が見たからか、新一は腕を組むと、少しだけ不満そうな表情を平次に向けた。


 高校生の時と変わらず。大学生になった今も、二人は個人的に受ける依頼で探偵を続けていて。写真を撮ると言えば、現場の状況を残す為であったり、自分が調べている場所を撮って相手に送り、意見を求める時だったり。私生活で言えば、たまに風景を撮ったり、面白い物を撮ったり。そんな事ぐらいしか平次には思い浮かばなかった。
 女子のように、料理を撮ったりだとか、そう言うことは最初から頭にはない。


「普通に考えて、そこは自分だって思わねーワケ?」
「は?オレ?」
「他の誰を撮るんだよ。このオレが」
「いや、知らんけど」


 意味分からん。
 思ってるのが丸分かりな表情の平次に、新一は組んでいた腕を解いて脱力すると。同時に思い切り溜息を吐いて見せた。


「なんでお前、事件の時はちゃんと勘が働くのに、オレとの時はサッパリなんだよ。つーか、もう勘とかそう言う話でもねーけどさぁ」
「そないゆわれてもやなぁ……」


 人差し指でぽりぽりと頬を掻きながら。さめざめとした様子の新一に、平次は困ったように眉をハの字に下げて。そう言えば、付き合い始めたばかりの頃だったか。やたらと新一が平次の写真を撮ろうとしていた時期があったな、と。斜め上に視線を向けながら平次は思った。


 あんときの理由はなんやったっけ……――?

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