バレンタイン・キッス

 有り得ないくらい相手を好きなのは、新一だけじゃない。平次もまた、有り得ないくらい、新一が大好きだ。
 そしてそれは、やはり言葉にしなくても新一には届いていて。言葉でも伝えたら、新一は絶対調子に乗る。すぐに調子に乗る性分は自分と一緒だと知っている。
 新一に好きだと言われても、平次が調子に乗ることはないけれど。


 だから平次は、滅多に言葉では伝えない。それは、付き合い始めた時から変わらないし、これから先も変える気はない。


 言葉にする事が照れくさい。それも確かにあるけれど、調子に乗せることがイヤだとか、照れくさいとか。単純にそれだけが理由でもない。他にも色々理由はある。
 そしてその理由の全てを、恐らくいつも傍に居る名探偵は知っている。そのくせ、時々無理矢理言葉を引き出そうとしたりするから、平次はその都度ひどく困ってしまうのだが。
 言葉として伝えて欲しい。その気持ちが分からない訳でもないから、大事な時にはちゃんと伝えるようにはしている。


 その平次とは対照的に。新一の方は結構言葉の大安売りで、事あるごとに気持ちを言葉で告げてくる。それは時と場所を選ばない。
 そんな簡単にほいほいと何度も告げられては、信憑性を失くすというものだ。そして、慣れを引き起こす。慣れは全てに於いて天敵だ。平次はかつて新一にそう言った。
 けれどそんな平次に、これは平次を守る為の呪文なんだと、新一はただ優しそうに笑って言った。


 付き合う以前の新一は、どちらかと言えば平次と同じく、言葉で表すことをあまりしない男に見えていたし、実際、彼女に対してこんなに言葉として伝えている姿を頻繁に見たことはなかった。彼女も、なかなか言葉で言ってくれないと、よく愚痴をもらしていたものだ。


 それが、いざ自分が相手になったらこうなのだから、それは平次も最初はひどく面食らったし、動揺もしたものだった。
 今ではすっかり、自分で言った通りに慣れてしまったけれど。

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