バレンタイン・キッス

 言葉にしなくても伝わる想い。伝わらない想い。その境界線はどこにあるのか。それは分からない。
 取り敢えず分かっているのは、新一が自分を好きだと言う事。


 それも、有り得ないくらいに。


「……なんや。オレの顔になんか付いてるんか」


 キャンパス内のカフェだというのに。周りには他の生徒。当然見知った人も居るというのに、この男は……。
 テーブルの向かい側。交差した両腕に顎を乗せ、自分をじっと上目に見上げている新一に、平次が小さく息を吐く。


「いや、別に」


 返った言葉に細まる瞳。そこに宿るのは不審の色。


「別にって……ほんなら、なにさっきからじーっと人の顔見てんねん」


 実に嫌そうな声色で言いながら、読んでいた本に栞を挟む。閉じた本を置き、片肘で頬杖をついて。少しだけ近まった距離で見下ろすと、へらり新一が笑った。


「聞きたい?」


 返る言葉を知っていて、そんな事を言う新一に。平次は口をへの字に曲げると、次の瞬間には溜息と同時に瞼を閉じて。ガックリ肩を落とし、吐かれた息は、結構長い。


「やめとく。ここで聞いたら一生後悔しそうな気ぃするし」
「なんだ。じゃ、聞きたくなったらいつでも言えよ」


 姿勢を一度戻して。片肘で頬杖をつき、向かい合った瞳が笑う。


 まるで鏡みたい。
 仕草も。内にある想いも。
 時々そう思う。

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