君と僕の日常
「ちゅうかな。お前、順番色々間違うてるやろ。なあ?」
ひとしきりキスを愉しんだ後で。やっぱ何事も無かったかのように。またクッキー食いながらの説教が始まった。
「確かにオレ、お前ん事好きなんかな?て訊いたで?訊いたけども、や。別に告ったワケやなし。その後、やっぱ違ったかもゆうたやんか。なあ?」
よくまあ、甘いもん食いながらこんなに文句が出るもんだ。甘いもんて、脳内安定効果的なモノがあった筈だけど。
つーか、ホント切り替え早いよな。どうなってんだ、コイツの脳内。
オレが反応しなくても、服部の話は勝手に進む。
「こんでホンマに違ってたらお前ただの強姦魔やで?しかも襲ったの同性で大阪府警本部長の息子て……もう、色んな意味で終っとる。そこんトコ、ちゃーんと分かっとるか?」
「……まあ、分かってるけど……」
「分かってへん。分かってへんて。大体やな」
あー、ダメだダメだ。こりゃ放っといたら延々続く。
つーか。もう答えは出てる。話を続けさせる理由がねえし、そろそろ切るかな。
「あー、もう。わかってる!って言ってんだろ、ったくよー」
ぼりぼりと後ろ頭を掻きながらに言うと、一瞬、服部のマシンガントークが止まる。その隙を逃さない。
びし、と。身を乗り出して人差し指を服部の目の前に突きつけた。
「どんな文句言おうが、言い訳しようがム・ダ・だ。お前の気持ちはもう分かってる。諦めろ」
「なにが……」
順番を間違えてる。本当に違ってたら。そんなセリフが出るのは、やっぱオレの事が好きだったって事で、ヤり逃げされたらどうしようとか思ってるっつー事。
オレに決定的な一言を言わせたい。そう言う事だろ?
「正直、オレは全然そう言う気持ちなかったけど。まあ、まんまとお前の心理戦にはめられたワケだ」
「心理戦ってなんや。オレは何も」
「分かってる。無意識でやってたんだろ。こう言う事に関しちゃ、そんな計算できるヤツじゃねえしな」
気になるを沢山仕掛けると、その対象への興味も比例して増大する。気になる理由付けから、人はその対象に好意があると思い込んで、しまいには好きになっちまう。
まあ、簡単な恋愛心理学だ。まさか自分がはめられるとはな。しかも男に。
人生なんて、次の瞬間に何が起こるか分からない。
けどまあ、おあいこか。きっと服部がオレを好きになっちまったのだって、同じ心理が働いたせいだ。最初は純粋に、同じ高校生探偵への興味だった筈だ。オレを知って、もっとオレを知ろうとして、まあ道を間違った。
「で?お前、覚悟は出来てんの?」
けど、二人で共に間違ったなら。
「なんの覚悟や」
二人でその道を進んでったら、最後には正解の道になってるかも知れない。
「オレに溺れて死ぬ覚悟」
言って、にっと笑って見せたら。服部は一瞬じと目になったけど。
「死ぬのはイヤや。溺れても、絶対助けてくれるならええけど」
「溺れて、上下左右も分からなくなったてたら、手を掴んで引き上げてやるよ」
「ほんなら覚悟決める」
答えて、微笑むみたいに笑った。その顔はちょっと反則だ。
例えここで服部が応えてくれなくても、もうオレは引き返せない。でもきっと、オレが同じく溺れても。服部は絶対オレの手を引いてくれる。だから、オレも覚悟を決める。
「じゃ、今から心はオレだけのものでいなさい、服部平次君」
カップを置こうとする手に、そっと上から自分のをれを重ねて。そこに注がれている瞳が、ゆっくりと。スローモーションみたいにこちらを向くのを待つ。
「したら、工藤新一君。ジブンも心はいつもオレだけ見てなさい」
瞳が合って。その瞳が微笑むのと同時。もう一度。身を乗り出して、そっと触れるだけ、唇を重ねた。その後で。
「……あ。やっぱ、身体もオレだけのものね」
唇を離して呟いて。
「アホ」
ぺしり叩かれたけど。言葉と行動とは全然違う。優しい瞳がオレを見ていた。
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