君と僕の日常

「……犯人、嫁やろコレ」
「そうか?運転手じゃね?」
「お。意見分かれたな」

 観ているのはサスペンス。原作のないオリジナルのシナリオだから、お互いに結末は知らない。
 推理している時は、大体同じ意見になる。だから、こうして意見が分かれた時は、服部は妙に喜ぶんだ。そして自分の推理が当たるとすげえ喜ぶ。だからと言って、オレの推理が正しい時に悔しがるかって言ったらそうでもない。寧ろ喜んでたりする。

「あ。犯人、たぶん運転手やコレ。流石工藤やな。なんで分かったん?」
「なんでって……」

 ほら、やっぱ喜んでる。変なヤツ。

「あきらかに好意を寄せてる描写があったから。愛が殺意に変わった、のパターンだろ」
「運転手、男やぞ」
「ソッチ系の話なんじゃねー?なんか知らねーけど流行ってるし」
「ふーん」

 結果。オレの推理通り、犯人は運転手。自分の愛が利用されていただけだったと思い、愛は憎しみへ。まあ、サスペンスでは有りがちな殺意だな。
 運転手も殺された相手も男だけど。ついでに、関わって殺されたヤツも男だけど。なにこの世界。ホモばっか?

「よう分からん話やったな……」
「そうだな」

 エンディングの画面を眺めたまま、複雑な表情で服部が呟く。
 確かに良く分からない話だった。特に、製作者の意思が。なにを目的としてんの?このサスペンス。

「自分に振り向いてくれないって。そんだけで殺すとか。やっぱ理解出来ひん。現実の事件でもそうやけど。大体、利用されてるて、叶わんって分かっとって一緒に居ったワケやろ?別にアレ、利用してるのとちゃうやんけ。普通に愛人やん。なんでそれでこうなんねん。意味分からん」

 ってソッチ?疑問点ソッチ??
 流行ってる、だけで男同士な事は納得してたワケね。素直。すげえ素直。

「まあ、ソッチの意味で犯人の心理分かってたら、それはそれで困るんだけどな」
「そらそうか」

 あっさり言って、エンディングも終わったテレビから視線を外すと。

「けどアレやな。アレがそうなら、オレのはやっぱちゃうな」

 手を伸ばして煎餅を取る。その動きを、なんとなく目で追った。

「なにが?」
「昨日、工藤に自分で考えー、言われた事」

 煎餅を食いながら話す服部に、昨日の顔が重なって。

『オレ、お前ん事好きなんやろか?』

 瞬間、蘇る記憶。心拍数。その他諸々。

「オレ別に、工藤とあんなんしたいとか思わへんし」

 ぺろり。指先を舐めるのに覗く舌。
 ごくり。息を呑んだ。その音がやけに耳の奥で響く。
 あ、ヤバい。ダメだコレ。

「……たら?」
「ん?」

 ダメだと言う自分は居る。止まれ、と。だけど。

「オレはしてみたいって言ったら?」
「え?」

 ダメだ。欲のが勝っちまう。当たり前だろ?オレ、男子高校生だし。興味も性欲も有り余ってる歳だし。前に見た夢のせいもあるけど、いちいちエロく見えちまうんだ。仕方ねーよ。

「え……ちょ、ま……」

 両手首を掴んで、ソファに押し付けて。見下ろした顔は、何より先に驚きがきているようで。見開かれた瞳は、いつもより大きい。

「え?なに??してみたいって、オレん事……ええっ!?」

 どうやら混乱しているらしい服部は、すっかり抵抗することすら忘れてるようで。オレを見たまま、ただ驚いてる。

「本当に違ったかどうか。確認してみろよ」

 手首を掴む力を強めて、蹴られないように脚の間に入り込んで。顔を近づけると、見開かれていた目が、ぎゅっと閉じられる。硬く結ばれた唇は、触れたら硬くて。ちっとも気持ちなんて良くない。
 片手だけ放して、そのまま服部の頬にあて。

「そんな硬くなんな。力抜いて、ちょっと口開けて」

 僅かに離した唇で。息がかかる距離のまま囁くように言うと。

「あ、アホか。お前、なにしてるか分かってんのかっ!?」
「分かってるよ」
「テレビの影響受け過ぎや!きょうびのガキかっ」
「高校生だからな。まあ、イマドキのガキだよ。お前もそうだろ?」

 口ではなんだかんだ言うものの、逃げる様子もない服部。黙らせるように、もう一度その唇を自分のソレで捕らえる。

「んーっ」

 今度はちゃんと柔らかい。
 角度を変えて、何度も口付けてみるけど。やっぱり服部は抵抗しなくて。両方の手首を開放しても、逃げる様子すらない。驚いてるだけにしちゃ抵抗がなさ過ぎる。
 舌を入れればちゃんと応えるし。絡めた舌を解いて、漏れる息は甘い。
 オレとはこーゆー事、したいと思わないんじゃなかったのかよ?
 シャツの隙間から滑り込ませた手で肌に触れたら、くすぐったそうに身を捩る。
 んー、ダメだな、もっと。もっと違う表情をさせたくなってくる。

 あ。やっぱオレ変態だわ。

「どうだ?違ったのか、やっぱそうなのか。確認できたかよ?」

 首筋に這わせていた唇を離して顔を上げ、肌を滑らす手を止めて。少し潤んでるように見える瞳を覗く。

「こんなんで……分かるワケ……ないやろっ」
「あ、そ」

 こつん。オレの頭を軽く小突いた手を掴んで。

「じゃ、分かるぐらいヤってみる?」
「はあっ!?」

 にこり笑みを見せて立ち上がり、それと同時に服部を抱え上げた。いわゆるお姫様抱っこ。服部は男だからな。正直重い。けど問題ナシ。サッカー部のトレーニングメニュー舐めんなよ。

「アホ!下ろせ、変態!!」
「はいはい。ベッドに着いたら下ろしてやるよ。暴れんな」
「今ここで下ろせやーっ!」

 階段登る間も暴れる暴れる。お陰で次の日両腕筋肉痛。まあ、それと引き換えで良い事出来たからいいけど。服部の色んな顔見れたし。
 アイツ、普通に綺麗な顔してるんだよな。眉毛太いままにしてんのだって、細めに整えたら静華さんバリの美人顔になっちまうからだろうし。眉毛ぐらい太かろうが細かろうが、オレはどっちでもいいと思うんだけど。まあ、アイツのプライドなんだろうな。
 取り敢えず。ヤってる最中、何度か答え訊いてみたけど。服部は答えを言わなかった。いや、言えなかっただけか?
 でもまあ。逃げなかった。それが答えかな、と。オレは推理する。

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