君と僕の日常

「おもろかったなー。なあ、工藤」

 正直な事を言えば。すっげー人混みだったし、その状態で服部は勝手にアッチコッチ行っちまうから、見失わないように常に必死だったし。面白いとか、楽しいとか言う以前に、すっげー疲れたんだけど。

「そうだな」

 そう答えてやるオレ。やっぱ優しい。
 だってさ。すげー言葉まんまなんだよ、服部の顔。面白かった、楽しかったって。すっげーキラキラしてんの。連れて来た甲斐があるっての?見てるコッチまでつられそうな顔。そりゃ優しくもなるさ。

「土産もばっちし買うたし。後は明日無事に新幹線乗って帰るだけやー」

 土産の入った袋を持った手を伸ばし、大きく伸びをしながら言う横顔。
 ああ、そうか。明日はもうコイツ、帰っちまうんだ。そっか。

「……工藤?」

 名前を呼ばれて気がついた。オレ、歩みが止まってたらしい。

「どないしたんや。なんぞ落としたんか?」
「違えよ」

 相変わらず能天気なヤツだ。繊細なオレとはやっぱ違うよ。
 昨日、あんな事言ってたと思えば、今日はもうなにもなかったかのように平気にしてるし。切り替えが早いのは良いトコでもあり、少しイラっとくるトコでもある。いちいち怒ってたんじゃ体がもたねーから、怒ったりはしねーけどさ。

「もう帰っちまうんだな、って。あっと言う間だなって思っただけだよ」

 言いながら歩いて、服部の隣を過ぎる。
 少し間をおいて。服部が少し駆け足で隣に並んだ。

「なんや?寂しいんか?」

 茶化す声に。

「そうかもな」

 素直に答えてやったら。今度は服部の歩みが止まって。

「置いてくぞ」

 振り向いたら。はっとしたように、慌てて後を着いて来た。

 なんだろう。夕日のせいかな。本当に今、寂しいとか思っちまった。
 ずっと一人で暮らしてるし、一人には慣れてる。一人で居る事は、別に苦にならない。
 ただ、会いたい時に。話したい時に、こうして隣には居ない相手なんだって。会おうと思って、すぐに会える距離に居ないヤツなんだって。今更ながらに気がついた。

 今だったら。あん時の服部の気持ちが、なんとなく分かった気がする。

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