真夏の夜の夢
































「……何やソレ」

 アイスコーヒーをストローで啜りながら。

「とても人気小説家の息子とは思われへんな」

 呆れた瞳がオレを見る。

「んな事言われても。夢はオレが脚本書いてる訳じゃねーし」
「お前が見てるのやから、考えてるのもお前やろ」
「考えて見れるモンかよ」
「分からんやないか」

 昨晩見た夢の話を聞かせた感想。

『何やソレ』

 まあ、それはいいんだけど。
 見たオレだってそう思うし。

「ちゅうか。起きてきた瞬間に思きし抱きついて来たん、それが原因か?何コイツ朝から発情

してんねん、思ってたけど」
「誰が発情してんだよ。別に何もしなかっただろーが」
「当たり前や。起き抜けに何かされてたまるかい」
「……にゃろぉ……」

 それにしたって、別の感想ってモンはねーのか。
 夢の中の服部は可愛かったけど。
 現実の服部は、ほんっとこーゆートコ可愛くねえんだよな。

「夢で良かったって。心底安心したんだけどな、オレは」

 不貞腐れ気味に言った言葉に。

「あんなぁ?そんなん、夢以外に何があんねん。現実的に有り得へんやろ」

 更に追い討ちをかけてくるから。
 本格的に不貞腐れようと思って、顔を背けた。
 その瞬間。

「大体。オレがホンマにその蝉やったら。寿命がとうに尽きても、気合だけで踏ん張り倒して

、もう要らん言われるまで、ずーっと工藤の傍に居ったるわ」

 そんな言葉が飛んできて。

「は?」

 思わず、激しく間抜けな声と面になる。

「周りに連れ作るのが恩返しなんか知らんけど、辛い思いさしたらあかんやろ。ただの自己満

や。そんなんオレはイヤやし、そんな事するヤツはオレやない。傍に居って何かしたい思うく

らいの気持ちやったら、何が何でも幸せにしたる、ぐらいの気迫でおらな」

 言っているのは、相変わらずオレの夢に対するダメだし。
 だけど。
 内容からいくに。
 気に入らないのは……。

 夢の中の自分自身?

 しかも。
 その言い方は……――。

「それって……」

 オレの事大好きって事だよな。

 思ったら。
 何だか可笑しくて。
 そして、夢の中の服部よりも。
 実はずっと、現実の服部の方が可愛い気がして。

 込み上げてくる笑いを。
 堪える事が出来ず、思い切り笑った。

「……何笑てんねん」
「いや……別に」
「嘘言えや」
「何でもねーって」

 失うのが怖いって。
 付き合いが長くなって、深くなるにつれて思ったりする。
 きっとアレは、そんな気持ちが見せた夢。

「なあ、服部」
「何や」

 そんな不安を、いつもコイツは吹き飛ばす。
 だから。

 夢では伝えられなかった想いを。
 たった今、素直に告げたい。

「やっぱオレ、お前がホント好きだわ」
「は?」
「好きだよ、服部」
「き……急に何やねん。気色悪い」
「気色悪いゆーな」

 一人で見る夢は、いつか必ず覚めるもの。
 だけど。

「好きだよ」

 二人で見る夢は。

「……分かってる」

 いつまでも。
 ずっと、ずっと、終わらない。

[ 114/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -