真夏の夜の夢

 帰り道。
 落ちていた蝉。
 葉っぱに乗せてやった。

 コレは……服部が見せている記憶……?

「……お前……」

 地上に出た蝉の。
 成虫が自然の中で生きれる期間は約1ヶ月。
 服部がオレの前に現れて。
 生活していた期間は、それをとっくに超えていた。

 限界。
 それを超えても。
 オレの為に、傍に居てくれた。

「あの時の……」

 髪を撫でる手は優しく。
 あの時みたいにあたたかい。

「……」

 服部が何かを呟いた。
 その声は届かない。
 光の中。
 どこまでも優しい笑顔だけが、鮮やかに心に焼きつく。

 たくさんの蛍が飛び立ったみたい。
 光の粒がふわふわと舞って。
 両手の中から。
 ひとつ、またひとつ。

 ……消えて……――。

「勝手に現れて……勝手に消えて。何が恩返しだよ……ばーろ」

 両掌の中。
 光が全て消えた後、残っていたのは。
 硬く。
 動かなくなった、一匹の蝉。



「何で……地上に出たら、ひと夏しか生きられないんだよ」

 まだ終わらない花火の。
 大きな音が背中に響く。

「どうせ化けれるなら、ずっと化けててもいいじゃねーか……。騙すなら……一生騙しきりやがれ」

 花火の光が届く場所。
 毎年、輝く花が添えられる場所に。

 夏を精一杯生きた体を。
 そっと。
 好きの気持ちと、一緒に埋めた。

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