真夏の夜の夢

「なあ、服部」

 服部と出会って。
 セピアに染まった世界が、色を取り戻して。
 本の中でしか知らなかった気持ちや、楽しさを知って。

 昔から知ってるとか、知らなかったとか。
 そんな事はどうでも良くて。
 誰かと一緒に笑える事が、幸せなんだと気付かせてくれた。
 そんな服部が。

「オレ……」
「夏も、終わりやな」

 好きだと。

「ほんま、あっちゅう間や」
「服部……?」

 告げようとした。

 その言葉を遮られて。
 しみじみ語る、服部の方をもう一度向いて……――。

 辛そうな顔。
 額に滲む汗と、その体を包む何か。
 それに驚き、息を呑む。

「ごめんなぁ。もう、あかんみたいや」

 瞳に映る服部の。
 輪郭が、薄い光に縁取られてゆく。

「ダメってなんだよ……何なんだよ、その光っ」

 縁取りが、やがて全体に広がって。
 まるで蛍みたい。
 柔らかな光が、服部全体を包み込んでゆく。

「ちょっとの間やったけど……めっちゃ楽しかった。頑張って出てきて、ほんまに良かった」
「何言ってんだよ。何言ってんだ!これからだって、楽しい事たくさんあんだろっ?!なあっ」

 掴んだ肩が、酷く冷たい。
 その冷たさに、思わず手を引く。

「楽しい事……そうやな。工藤にはたっくさんあんで。これから、もっと、もっと。それを、知っておいて欲しかったんや」
「何言ってるかわかんねえっ。わかんねーよ!」

 もう一度、肩を掴んで。
 間近に見た瞳が、ゆっくりと、柔らかく笑う。

「少しは、恩返し……でけた?」

 瞬間。
 脳裏にフラッシュバックする記憶。

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