真夏の夜の夢

「コラ、服部。勝手に先に行くな」

 予想通りの人混み。
 はぐれたら、探し出すのも大変だってのに。
 興味を引くもの全てに寄ってくモンだから、何度か見失いそうになって。
 その都度、腕を掴んで止めた手を。
 いっそ繋いでしまいたい。
 そう、何度も思った。

「そろそろ花火の時間だぞ。見える場所に移動しねーと」

 腕時計に目をやる。
 時刻は6時50分。
 花火は7時から。

「それやったら、オレいい場所知ってんで。コッチや」
「あ、おい。待てって!」

 また勝手に進んで行く。
 と、思いきや。

「ほれ」

 立ち止まって振り向いて。
 差し出してくる手。

「早よう」

 これは、繋げって事だよな。
 いやしかし、人の目ってものが……。

 一人ぐるぐる考えている間に。

「あー、もう。こないに人居ったら、誰もひとさんの事なんぞ気にしてへんて!」

 痺れを切らした服部が、ぎゅっとオレの手を掴む。
 勢い良く引かれる手。

「行くでっ」

 引き摺られるようにして、駆け出す服部の後に続いた。
 繋いだ手は、熱かった。

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