真夏の夜の夢
「コラ、服部。勝手に先に行くな」
予想通りの人混み。
はぐれたら、探し出すのも大変だってのに。
興味を引くもの全てに寄ってくモンだから、何度か見失いそうになって。
その都度、腕を掴んで止めた手を。
いっそ繋いでしまいたい。
そう、何度も思った。
「そろそろ花火の時間だぞ。見える場所に移動しねーと」
腕時計に目をやる。
時刻は6時50分。
花火は7時から。
「それやったら、オレいい場所知ってんで。コッチや」
「あ、おい。待てって!」
また勝手に進んで行く。
と、思いきや。
「ほれ」
立ち止まって振り向いて。
差し出してくる手。
「早よう」
これは、繋げって事だよな。
いやしかし、人の目ってものが……。
一人ぐるぐる考えている間に。
「あー、もう。こないに人居ったら、誰もひとさんの事なんぞ気にしてへんて!」
痺れを切らした服部が、ぎゅっとオレの手を掴む。
勢い良く引かれる手。
「行くでっ」
引き摺られるようにして、駆け出す服部の後に続いた。
繋いだ手は、熱かった。
[ 109/289 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]