真夏の夜の夢
夏の夜に咲く花火は。
美しく、物悲しい。
一瞬の為に生まれ、一瞬を華やかに生ききる。
日に日に。
服部は、様子がおかしい事が増えていて。
病院に行こうと何度も誘ったが、頑なにそれを拒んで。
夏が終わる頃には。
大分弱っているのが、目に見えて分かるようになっていた。
「夏祭りやて。花火や花火。なあ、工藤。花火見に行こう」
チラシの束から一枚引き抜いて。
目を輝かせた服部が言う。
「あー?花火?人すげーだろ。疲れるからやめとけ」
「えー?せやかてオレ、音は聞いた事あるけど、実物見た事あれへんし。見てみたい」
「は?見た事ねーの?花火」
「うん」
相変わらずキラキラとした目でチラシを眺める姿は。
体が弱っている。
その事実を、少しだけ忘れさせた。
「……じゃ、行くか。花火」
「ホンマにー?!やった!」
無邪気に喜ぶ笑顔が、まるで子供みたいで。
子供は好きな方じゃないけど、何だか可愛いと思える。
「何?」
微笑ましく眺めていてたであろうオレに。
怪訝な表情を向ける服部。
「いや。可愛いなって思っただけ」
そのまま告げたら。
少し、驚いたような顔をしたけど。
その後は、照れているようだったのが新鮮だった。
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