真夏の夜の夢
辿り着くと。
何事かと言った表情で。
何時もと変わらない服部が、オレを驚いたように見ていた。
「……どないしたんや、工藤。そないに息切らして……」
「どうしたじゃ……ねえよ……っ」
両肩を掴んで、間近に見るが。
特に汗を掻いたり、息が乱れてる様子もなく。
寧ろその状態はオレの方で。
安心したら、体中の力が抜けた。
「工藤?」
凭れかかるように、服部に自分の体を預けて。
そのまま、包み込むようにして抱き締める手は。
先程までの不安のせいか、少し震えていた。
「消えちまうかと……思った」
抱き締める手に、力が篭る。
「オレが記憶喪失なだけだろうけど……いきなりオレの前に現れたから。いきなり、オレの前から消えちまうんじゃないかって……いつも……」
腕の中の体はあたたかい。
困ったように笑って、オレの髪を撫でる手も。
「消えないよな」
呟くように訊いた言葉に、返事はない。
代わりに。
撫で続ける手は、何処までも優しかった。
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