真夏の夜の夢

 正直。
 学校なんてつまらない。

 友達は居る。
 部活は楽しい。
 けど、それだけ。

 無ければ無いで問題ないし、親友と呼ぶほどの相手も居ない。



「くーどーお」

 いつものように。
 一人、屋上で昼飯を食っているオレを呼ぶ声。

「まーた一人で飯食ってるんか。なんで誰かと食わへんねん」

 ひょい、と。
 背後から回り込んで来て、覗き込む瞳。

「……お前、誰だっけ?」

 妙に馴れ馴れしい。
 また、って事は普段のオレを知ってるんだろうけど。

「はぁ?」

 片眉を上げて、怪訝そうな表情をする。
 その相手に、全く見覚えが……無い。

「誰ってお前な……冗談やったら、さっぱり面白ないで、ソレ」
「いや……別に冗談は言ってねーけど……」

 真顔で返すオレに。
 ソイツはきょと、と目を丸くして。
 パチパチと、何度か瞬きをした。

「……え?ホンマに?ホンマにオレが誰か分からんのか?」

 一口。
 飯を口に運んで。
 箸を咥えたまま、無言で頷く。

「え、記憶喪失?」
「違うと思うけど……つーか、お前ホントにだ……――」
「服部ー!」

 箸を置いて、問い詰めようとした瞬間。
 遠くから掛かる声と、駆けて来る足音。

「何だ、ココに居たのかよ。探したぜ……って、まーた工藤と一緒かよ」

 言いながら、明らかにムッとした表情でオレを見るのは。
 オレの従兄弟の黒羽快斗だ。

「で、何かオレに用か?」
「飯だよ、飯。一緒に飯食おうと思って」

 手にした弁当を振って。
 に、と服部と呼ばれたソイツに笑ってみせる。
 黒羽の態度は、ずっと前から知っている相手に見せるようなもので。
 その黒羽が知っている相手。
 服部を知らないオレは。
 やっぱ記憶喪失なんだろうか……?

「ほんなら丁度ええわ。ココで皆で飯食お」
「あー?工藤も一緒にー??」
「何だよ、そのあからさまに嫌そうな顔と声は」
「いや、だって嫌だし」
「お前な……」

 黒羽とのいつもと変わらぬやり取り。

「はは……まあまあ。ええやないか、たまには。なあ?」

 いつもと違うのは、コイツ。
 服部が居る事。
 の、筈なんだけど。

「服部がそう言うなら……仕方ねーから、一緒に食ってやるよ、新ちゃん」
「新ちゃん呼ぶな。気色悪い」
「確かにきしょい」
「おい」

 なんだろう。
 確かに、前から知ってる奴のような気がしてきた。

「したら、いただきます」
「いただきまーす」

 楽しそうに笑う服部と。
 嬉しそうにそれを見てる黒羽と。
 交互に眺めながら食べる昼飯は。

 なんだか少しだけ、いつもより美味く感じた。

[ 102/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -