真夏の夜の夢
学校からの帰り道。
公園に生える大きな木の下。
「……落ちたのかよ」
背中を地面につけて、ソイツはじたばたと足掻いてた。
「抜け殻がソコにあるっつー事は、羽化後に羽乾いてすぐかよ。どんくせーヤツだな」
そっと手を伸ばして掴むと。
ジジっと、警戒の声を上げて更に暴れる。
「ばーろ、じっとしとけ。戻してやっから」
暴れるソイツを落とさぬように。
絶妙な力加減で掴む手を上げて、適当な葉っぱの上にそっと乗せた。
「よし」
手から開放されたソイツは。
あんなに暴れたくせに、何故かすぐに逃げなくて。
なんとなく、じっとコチラを見ているようだった。
「なんだよ。助けてやったってのに何か文句でもあんのか?ったく。もう落ちんなよ」
蝉が人の言葉を分かるとは思えない。
話し掛けてる自分に呆れてきて。
ひらり片手を振ると、くるり背を向けた。
その背中に。
ジジ。
答えるように鳴いて。
蝉は、オレの頭上を越えて、どこかへと飛んで行った。
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