魔法のコトバ

「けどよう聞けや?何でもお前のしたいようしてええって話とちゃうからな。オレが嫌や、ゆうたモンはアカン。どや、守れるか?」

 腰を折り、近づけてきた顔はほぼ真顔。
 口答えしたら、即行で喧嘩腰になるのでは?と思えるような表情。
 いくら先に告白した方が立場が弱いとは言え、これはない、と工藤は思った。

 ここは負けてはいけない。

「それって、お前は全部拒否できるって事じゃねーかよ。そんなの守ってたら、今までと何も変わんねーじゃねーか」

 不貞腐れた顔と口調で返す。
 すると、服部は目をパチパチとさせ。
 そうかと思うと、姿勢を戻して何やら一瞬考えて。
 それからまた、視線を工藤へと戻してきた。

 どうやら喧嘩するつもりじゃなかったらしい。

「すまん、すまん。言い方が悪かったわ。せやからな?」

 工藤は、まだ不貞腐れた表情を浮かべたままで服部を横目に見る。

「そら勿論、人が居らん事は前提やで?2人の時やったら、触りたかったら触ってええし、抱きついてもそれはそれでかめへんし。基本、工藤のしたいようにしてええねんけど」
「けど?」
「いや……やから……」

 勝った、となんとなく工藤は思った。
 だが、表情は敢えて変えずに言葉を返す。

「つまり。ヤるのは嫌だって、そー言いたい訳?」
「ヤ……。何で一気に……っ。そ、それも確かに嫌やけど!ってちゃうちゃうっ、そうやのうてっ」

 一見怒ったような表情と口調。
 それは正解の証。
 普段強気なくせに、こう言う所はホント弱いし分かり易い。
 それが服部平次と言う男。

「約束はできねーなぁ。だってさ……」

 ソファから立ち上がり、固まったままの相手の首に両腕をまわして。
 極間近から瞳を覗く。

「こーして抱きついて」

 息が掛かるほどの距離。
 普段からパーソナルスペース無さ過ぎの服部には、距離自体は恐らくダメージにはならない。
 ならないが。

「お前の体温を感じたら」

 工藤の言葉と態度。
 それ自体が相当のダメージになっている筈だ。
 その証拠に、全く反論の言葉が出てこない。

「オレは、我慢できない」

 温かい。
 そして、柔らかい。

 それが、工藤の唇と認識した時には既に遅し。

「な?無理だろ。そんなの守れねー」

 にこ、と工藤が笑い。
 その後すぐ、服部が動かないうちにリビングをさっさと抜けようとしていた。

「……―――っ!くーどーおーっ!」

 リビングのトビラを開けた頃。
 背後から酷くドスの利いた声が聞こえて、追い掛ける気配が届いた。

 かなりまずい。
 これは本気で怒っている。
 



 その後。
 お付き合いと言うものは、告白から始まり、その後は少しずつ距離を縮めていって……等。
 暫く演説を聞かされ。

 結果的には、交際はOKで。
 キスまでなら、いきなりしなければ許す、と言う言葉を得るに至った。

 そこに至るまで、工藤は何度軽い暴行を受けたか数え切れなかったが。

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