We were born to meet.

 ホテルにある小さなアクアリウムは。
 24時間、宿泊客ならいつでも立ち寄れる。
 イルカやサメや……派手なモノは全然無いけど。
 静かで薄暗い館内は、まるで海の底のようですごく落ち着く。

「……いっちゃん高いコースな上に、バースデープラン頼んでるとか……とんだ羞恥プレイやったで」

 水の影がゆらゆら揺らぐ室内。
 水槽に両手を当てて。
 溜息混じりに魚を見上げる。

 台詞はともかく。
 その表情に、ちょっと心がざわつく。

「ケーキも美味いって残さず食ってたじゃねーか」
「開き直っとっただけや!」
「じゃあ、ホントは美味くなかったのかよ?」
「美味かったけど」
「ならいいじゃねーか」
「……はー……」

 片手を額に当てて、大袈裟に溜息を吐くと。
 ゆるゆると首を横に振りながら、近くのベンチに腰を下ろして。

「あー……しんどなた」

 言って頭を垂れる。

「オレと居ると疲れるか?」
「別に」
「今は疲れてんだろ?」
「今はな」

 ゆっくりと近付いて。
 すぐ目の前で立ち止まるけど。
 服部は下げた頭を上げようとしなくて。
 どんな表情をしているのか。
 オレの位置からは全く見えない。

「悪かったな、付き合せちまって」

 ゆらゆら、ゆらゆら。
 服部の髪に映る影に。
 まるで波に髪が揺れてるみたいな錯覚を覚えて。
 二人、本当に海底に居るみたいに思えてくる。

「けどもう、誕生日も終わりだ。いい想い出になったよ」

 片手を伸ばして。

「サンキュな。……それから……――」

 髪に触れようとした、その手の動きを。
 服部の手が、掴んで止めた。

「まだや」
「え?」
「まだ、終わってへん」

 オレ達以外、誰も居ない。
 時が止まってるみたいな、海の底のような空間。

「プレゼント、渡してへんやん」

 やっと上げた顔。
 その表情は、ほとんど無表情に近い。

「別にプレゼントなんて……つーか、そんなモン持ってたのかよ?」

 見る限り。
 何かを持っている訳じゃないし。
 ポケットに何かが入っているようにも見えない。

「ちょお、寄れ」

 手は掴んだまま。
 もう片方の手で手招きする。

「……なんだよ。何か企んでんだろ」

 警戒して、下がろうとするのを掴んだ手を引いて止めて。

「ええから、早よ寄れ。ホンマに誕生日終わってまうやろ」

 じっと見てくる瞳は真剣。
 反射する光が映って綺麗だ。

「なんなんだよ」

 海底で輝く真珠を見つけたみたいに。
 その瞳に吸い寄せられて。
 近付いたところを捕まえられた。

 そしてそれは、ほんの一瞬。
 何が起きたのかも分からないぐらいの。

 呆けているオレに。
 少しだけ、怒ってるみたいな表情を向けて。

「誕生日っちゅうのはな、始まりの日ぃやねん。しまいの日ぃとちゃうんやで」

 告げると。
 くしゃり、頭を撫でて。

「誕生日、おめでとさん」

 言ってくれたその顔は。
 あの時と同じ位に眩しくて。

 やっぱり、どきりと心が鳴った。

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