We were born to meet.

 好きなんて、たった一言では言い表せない。



「おい、工藤。この部屋、なんぼしたんや」

 部屋に着いて、奥に入るなり響く声。

「景色が一番いい部屋、っては頼んだけど」
「いや、答えになってへんし」
「ま、いいじゃねーか。おー、絶景」

 ベッドの向かいは一面のガラス。
 その先はテラスになっていて、奥に広がるのは月明かりに輝く海面。

「通りで……フロントの兄ちゃんがチラチラ見とった訳や。スイートやろ、ここ」
「たぶんな」
「たぶん、て……男二人でスイートとか。頭おかしいやろ」
「気にすんなって。細けー奴だな」
「細かくなくても気にするわっ」

 まだ明かりもつけてない部屋なのに。
 月明かりだけで十分明るい。

「うわ、風呂めっちゃ広っ!風呂からも海見えるし!!」

 バスルームから漏れる明かり。
 反響して聞こえる声。
 文句なのかはしゃいでるのか。
 あれやこれや。
 確認しては騒いでる。

「つーか、煩えよ。ちったー落ち着け」

 ガキか。
 バスルームを覗くと。
 窓から月を眺る、服部の姿が目に入った。

 バスルームからも見える、白く丸い月。
 ついさっきまで、あれほど騒いでいた奴が、今は大人しい。

「なあ、工藤」

 ゆっくりと、視線をこちらに移して。
 真っ直ぐオレを捉える瞳。
 それはまるで、月の輝き。

 この輝きの前には、嘘など通じない。

「で?わざわざ旅行に誘って。こないな部屋まで用意して。目的はなんや?」

 どんな変化も見逃さない。
 そう告げる瞳に。
 初めから負けの決まったこのゲームで、オレのポーカーフェイスはどこまで通じるか。

 ……通じねーよな。
 思いながら月を仰ぐ。

「別に。目的なんてねーよ。ただ、お前とゆっくり旅がしてみたかった。そんだけだ」

 その言葉に嘘はない。

 同じ目線で。
 同じ景色を。

 一緒に並んで、感じたかった。

「誕生日に、彼女ほっぽいてまでか?」

 隣に立って、月を見上げるオレの横顔を。
 洗面台に腰を下ろして、苦笑いに似た表情を浮かべて見上げてる。
 服部はきっと、真意を知っているんだろう。

「残念。正確には、『元』彼女だな」

 下ろした視線を、そのまま向けると。
 一瞬、瞳が揺らいで。
 苦笑いが少し、濃くなった。

「……アホやなぁ、工藤……」

 外した視線を、緩く握られた自分の両手に落として。
 変わらぬ表情のまま呟かれた言葉は。
 どの事に対して向けられたものだったのか。
 その真意は分からない。

「さて。飯でも食いに行くか。誕生日だからな。一番たけーコース頼んどいたんだ。楽しみだろ?」

 くしゃり、少し俯いてる角度の頭を乱暴に撫でて。
 に、と笑って見せると。

「……いや、ホンマに……何やこいつ等?思われるから……」
「目立つの好きだろ」
「そーゆー目立ち方要らん」

 邪魔くさそうに手を退ける。
 そこから覗く瞳が。

 アホやな。

 そう言っていて。
 その真意はすぐに読み取れたから。
 常に、すぐに読み取れるなら楽なのに。
 そんな風に思った。

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