桜の雨

「あれで最後かよ。あんまりじゃねぇ?」

 キラキラと光る川面。
 映る桜。
 その中を泳ぐめだか。

「見ろよ。桜ん中を魚が泳いでんぜ?」

 振り返る瞳に映るのは満開の桜。
 その幹の下。

「……いつも、こんなのあったっけ……」

 少し大きめの丸い石と。
 添えられた花がある。
 片膝をつき、両手を合わせ目を瞑って。

「はぁ……ホントに幽霊だったのかなー……けどなー……」

 呟いて溜息を吐く。

 ずっと自分だけの秘密にしていた平次との話を。
 当然、重要な部分は除いて何となく話してみたら。
 みんなにそれはきっと例の男の子の幽霊だ、と言われて。
 それにしては、毎年身長も伸びて、普通に成長してたよな、とか。
 見るからに健康そうで、病気で死んだ子供には全く見えなかったんだけど、とか。

「……身体も、唇も……温かかったけどな」

 とか思っていると。

「……何の報告やねん、それ……気色悪いやっちゃな」

 聞き間違える事は無い声と言葉。
 それが響いて、思い切り振り返った。
 その瞳に。

「人のツレの目の前でちゅーするわ、アホな報告するわ……ホンマ、何の嫌がらせや」

 みんなに幽霊だと言われた。
 もう会えないと思っていた。
 平次の、すこぶる嫌そうな顔が映った。

「平……次?」

 呆けている新一をよそに。
 しゃがんで、丸い石の前にそっと花束を置く。

「ここで亡くなったの、オレの幼馴染みやった子ぉやねん。せやから、春休みにじっちゃん家来て、毎年花あげとったんや」

 両手を合わせ、瞳を閉じて。
 無言のまま何かを伝えて、瞼を上げる。

「ほんで、人なんて儚いモンやなぁ、て。幼心に思っとったら、お前が来て」

 平次の視線が、石から新一へと移って。
 まっすぐ向いた、瞳がぶつかる。

「次の年も、そん次も……ずっとお前が来るから。墓参りみたいな感じやったのやけど、それがそのうち、お前に会うのが楽しみになってって」

 瞬きもしない瞳がふと笑って。

「去年。ここで年1で会うの最後やゆうたやろ?探さんでもええって。あれな」

 ふわり。
 平次の温もりと香りが、新一を包む。

「お前が受けるゆうてた高校、オレも受けてん」
「え」

 耳元で響く声。

「今年からオレこっちに住むし、同しガッコ行くから。せやから、年1ちゃうくて、いつでも会えんで、って。あれはそない意味」
「ホントにっ?!」

 そちらを向くと。 

「うん、ホンマ」

 キラキラ。
 頭が眩みそうな。
 太陽の笑顔が輝いた。

[ 126/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -