桜の雨
新一がまだ幼稚園児だった頃。
桜の季節、一人の男の子が亡くなった。
その子は病気で。
桜の花が大好きで。
その日は、こっそりと病院を抜け出した。
そして、あの桜の木の下。
まるで微笑んでいるかのような表情で。
見つかったときには、花弁の雨の中、永い眠りについていたそうだ。
地元は大阪で。
病気の治療で東京の病院に通う為、近くの祖父母の元に居たと言う。
そんな話を聞いたのは、新一が小学生になって少ししてからで。
平次が話す言葉が、その子と同じ地方の言葉だと知った。
平次が現れるのは、決まって桜の季節。
その子が眠ったといわれる、桜の木の下。
夏、秋、冬。
その時期に探してみたこともある。
けれど出会う事は無かった。
「今年で最後やねん」
そう、平次は言っていたが。
それが何を意味していたのか。
結局聞く事が出来ないまま。
自分の想いも、きちんと伝えられないままに、季節は過ぎて。
また今年も、川原の桜が咲いた。
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