魔法のコトバ

「……もう、大阪に帰ったのかと思ってた」

 暗くなりかけていると言うのに。
 明かりもつけていないリビングのソファで、工藤が一人で座っていた。
 恐らく、朝から。

「そこまで卑怯やない」

 ゆっくりと近づいて、ソファの近くで歩みを止める。
 見下ろした顔は、まるで人形だった。

「答えを探してきた、って訳か。律儀なヤツ」

 振り向いた瞳に、服部の姿が映る。
 笑みを見せると同時に、瞳には光が灯り、人形は人へと変わった。

「返事する前に、ひとつ質問してもええか」

 真摯な服部の視線。
 苦笑いになりながら、工藤は肩を竦め、そして頷く。

「お前、オレと何がしたい?」

 工藤の目が丸くなった。

「何が……したい、だ……?」

 途切れながらの言葉に、服部が頷く。

「そうや。付き合うて欲しい、て工藤はゆうけど。今までのオレ達やったらアカン理由は?」

 服部から視線を外し、少し考えるような仕草。
 その後、視線は外したまま、工藤はぽつぽつと言葉を紡ぐ。

「……そりゃ……触れたいと思うし、キスだってしたいし。……抱き締めたいし、それから……」
「……もう、ええ」

 額を押さえ、細く、長い息が服部の口から漏れた。
 それを聞いた工藤は、喋るのを止め、服部を見上げる。 
 まるで、悪戯が見つかって怒られた子供のような、その表情。

「オレは、工藤にそんなん思えへん」
「だよな」

 自嘲気味の声。
 工藤も長く息を吐きながら、両手で顔を覆うように包んだ。
 その様子を眺めたまま、服部が続ける。

「けど」
「……けど?」

 床に膝をついて。
 目線の高さが同じになって。
 自分の手に片手を伸ばす服部の姿が、指の隙間から工藤の瞳に映って。

 指先が、触れた。

「オレらが、大阪と東京とで離れてへんかったら。もっと長い事一緒に居れるのにな、とは思った」
「……それは……つまり……?」

 触れた指先を掴んで。
 一瞬の表情も見逃すまいとするように。
 工藤の瞳は、瞬きもせずじっと、服部の真っ直ぐな瞳を捉えていた。

「つまり。オレもお前ん事が、ずうーっと好きやった、っちゅーこっちゃな」

 固まっているかのような工藤に、服部は柔らかな微笑を向け、ぽんと頭を撫でた。
 コナンだった、あの頃のように。

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