桜の雨

 桜の季節。
 通学途中の川原に。
 毎年その人は現れる。

 初めて見たのは幼稚園の帰り道。



「……何してんの?」

 じっと川面を眺める背中。
 声を掛けたら。

「水の中の桜見てんねん。来てみ。桜ん中を魚が泳いでるで」

 健康そうな肌色。
 聞き慣れない言葉を話すその人は。
 園児の心に何となく不思議に映った。

「ホントだ。桜の中をめだかが泳いでる」

 キラキラと光る水面。
 映る桜もキラキラで。
 それはまるで幻想的な絵画のよう。

「な。綺麗やろ?」

 言って笑った、その笑顔も。
 キラキラ。
 太陽みたいに輝いて。
 園児の心に、ぽっと小さな明かりを燈す。

「……どないしてん?」

 見つめたまま、ぽかんと口を開けてる園児に。
 その人は、少し眉を落として小首を傾げた。

「あ……なんでもない。君、名前は?」

 川に反射した光がその人を包んで。
 眩しさに目を細める。

「平次。自分は?」
「自分?」
「お前の名前は?って訊いたんや」

 眩しがっている事に気付いて、ゆっくりと歩き、隣に並んでくれた。
 間近でる瞳は猫のよう。

「新一」
「新一か」

 柔らかに細まる、猫の瞳。

「よろしゅうな」

 差し出される手は温かい。
 新一の心も、ほんわかと温かい。

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