Happy Valentine's Day

「え、マジで。ホントに?」

 綺麗にラッピングされていた箱を開くと。
 実に美味しそうな。
 市販品に負けない出来のチョコレートケーキがこそにはあって。
 正直。
 予想をはるかに超えてて、そんなセリフしか出て来なかった。

「驚いたやろ」
「驚いた」

 素直に。
 目を丸くしたままの状態で頷くと。
 凄く満足気に服部が笑った。

「作ったオレが驚くくらいやから、そんくらい驚いてくれたら、そら作った甲斐もあるっちゅうもんやで」

 にこにこと。
 上機嫌にコーヒーを淹れて。
 差し出してくれるカップから昇る良い香り。

「食っていい?」
「どうぞ」

 両肘で頬杖をついて。
 変わらず笑顔で見られながらに口に運んだケーキは。
 しっとりと柔らかいスポンジと、濃厚だけど甘過ぎないクリーム。
 そしてほろ苦いココアパウダーが溶け合って。
 服部そのものをケーキで表したような。
 そんな味。

「どや?」
「美味いよ?」

 訊いてくる口に。
 フォークに刺さったケーキを向けるけど。
 食べようとする、その寸前でケーキを自分の口に運んで。

「食わせろや。オレ完成品は味見してへんのやで」

 ムッと尖らせた唇に、自分のそれを重ねて。
 口移しに、ケーキを渡したら。

「な?美味いだろ」
「……めっちゃ甘い……」

 飲み込んで、渋い表情を浮かべた。

 きっと、想定より甘くなりすぎているんだろう。
 けど、こんなのは許容範囲だ。
 寧ろ服部が作ってくれたモノなら、それがただの砂糖の塊でも食い切る自信はある。

「そ?オレにはちょうどいいけどな」

 そんな事を思いながら。
 続けて食べて、自信を込めた笑みを向けると。

「……なら、ええか」

 言って服部も微笑んで。

「もう一口」

 立ち上がると、その場は動かずに。
 両手をテーブルについて、上体だけで近付いて。
 閉じられた瞳。
 繋がった場所で。

 さっきよりも長く。
 二人で一緒に、香りと味を楽しんだ。





 繰り返される日々の中。
 飽きる事無く何度でも。
 笑って、泣いて、喧嘩して。

 I've fallen in love you a hundred times for a hundred different reasons.

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テーマ「人外ファンタジー」
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