Happy Valentine's Day

 学校を出て少し歩く。
 角を曲がるとすぐに駅があって。
 そこから電車に乗って十数分。
 あっと言う間に賑やかな街へと着ける。

 ここは、雑貨屋もカフェも……全てにオシャレな店が多くて。
 平日休日を問わず、結構カップルで賑わう街だ。
 オレと服部も、好きな作家の本が発売になると、よくここにあるカフェにやって来て。
 オープンカフェでコーヒーを飲みながら、のんびり読書をしたりする。

 慣れてる街と言うのもあってか、そうじゃないのか。
 どうやら真っ直ぐに、目的地へと向かっているらしい服部の足取りは非常に軽い。
 
「……あ、カフェに入った」

 服部が入ったカフェの、向かいの通りにあるベンチ。
 あちら側からは少し見えにくい、けれどこちらからからは店内が良く見える。
 そんな絶妙な場所に、腰を下ろして。
 持っていた本を読むフリをしながら、店内の様子を覗った。

「……」

 服部が店内に入ると、片手を挙げて笑顔を向ける奥の席の女。
 その顔は、よく知っている顔で。
 オレと服部が居る、ミステリー研究会のメンバーの一人だ。

 奥井だったか?

 名前を思い出しながら、向かいに座って笑顔を向ける服部を眺める。
 その表情は、いつもの服部のそれで。
 特に特別な笑顔を向けているとか、そう言う事は一切ない。
 けど、腹立たしいのは。
 オレに内緒で、女と二人で会っていた。
 それが少なからずショックだったからだろう。

 オレ以外の誰かと二人きりで会うな、とか。
 女と仲良くするな、とか。
 そんなバカげた事は言うつもりもないし、思う事も無い。
 それは自分だって言われたら無理な話だから。

 だけど。
 会うなら会うで。
 予定があるならあるで。
 全部とは言わなくても、ちょっとぐらいは気遣いとして話しておいて欲しい。
 まして1〜2回ならまだしも。
 それが数週間単位であるならば。

 そう思うのは、オレの我儘なんだろうか?

「……っと。出てきた……」

 色々一人でぐるぐると考えてるうちに。
 服部と奥井が店内から出てきて。
 雑貨屋の多い道へと進んでいくのが見えた。

「見失わねーようにしねーと……」

 時間的に。
 人数が増えてきた道を。
 離れ過ぎず近過ぎず。
 そんな距離を保ったまま、二人の後をまた追った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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