魔法のコトバ
おかしい、と思った事は何度かあった。
寧ろ、気付かない訳がない。
だけど、そんな事はある筈がないと、自分に言い聞かせていた。
でなければ、工藤の傍には居られなかった。
……どうして?
「そもそも、こうなった原因を作ったのは自分じゃない」
志保の言葉に、納得がいかないと言った表情を浮かべ、服部が身を乗り出す。
「何でオレが原因やねん!オレは工藤には何時だって普通に……」
志保の瞳が冷たく見えて、一瞬言葉を躊躇った。
その隙を衝かれる。
「そうね。アナタは普通に接して居たのよね。一番大切で、一番大好きな『お友達』として。アナタ以外から見れば、普通の『お友達』以上の態度で」
「―――……っ!」
似たような台詞を、いつか和葉からも言われた事があった、と思い出す。
脳内に、様々なシーンがフラッシュバックしては消えてゆく。
「無意識にしろ、好きにさせたのはアナタ自身の行動。そして彼の心を、秘めておけない程に追い詰めていったのもアナタ。そのアナタが、最後は彼の心にナイフを突き刺すの?」
最早、返す言葉は見つからず。
力の抜けた体は、ソファに崩れ落ちるように沈んだ。
「ねぇ。彼が持つアナタへの想いと、アナタが持つ彼への想い。それって、そんなにまでも違うものなのかしら?」
気付いていると意識してしまえば、自分の想いも無視できなくなってしまう。
だから、気付かない振りをしていた。
プラトニックラブと呼ばれるもの。
それが、自分の中の彼への想いだ。
彼を知る度に、育った気持ち。
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