魔法のコトバ

 その一言は。
 一瞬で人を幸せにもし、一瞬で人を不幸にする。

 君の場合、どちらだったのだろう……。



「服部―――……」

 誰も居ないリビング。
 工藤の声だけが響く。

 既に、他の部屋も全て探した後だ。

 結論。
 服部はこの家には居ない。

「……やっぱ、居る訳ないよな」

 想像がついていた事とは言え、ショックは予想よりも大きかったらしい。
 情けなさに、思わずため息が漏れた。

『それ、本気でゆうてんのか?』

 呟いた服部の顔は、見るからに困惑していた。
 それと同時に、非難しているかのような瞳をしていた。

 なんで……?

 そんな声が聞こえそうな。
 いや、そう言っていたのだろう、と思えた。
 思い出し、またため息が漏れる。

「だって、しょーがねーじゃん」

 冗談だ、って言ってやれば良かった?
 まさか。

「好きになっちまったんだから」

 そんな嘘、君が見抜けない訳がない。



「……で?アナタ、いつまでココに居るつもり?鬱陶しいんだけど」

 呆れ声が、ソファでじっとしている服部に突き刺さる。
 俯いていた顔を上げ、ぶつかった瞳にも、やはり呆れの色が浮かんでいた。
 居た堪れなくて、再度俯いてしまう。

「工藤君と喧嘩……って雰囲気じゃないわよね。お喋りなアナタが、一言も喋らないくらいだし」

 お喋りな、は余計だと思ったが、口答えして通じる相手でもない。
 早々に諦め、服部は抱えた膝に顔を埋めた。

 その直後。

「もしかして、好きだ、とでも言われたのかしら?」

 聞こえた台詞に、驚いて顔を上げる。
 見開いた瞳が、真っ直ぐに服部を見ている志保と合った。
 その瞳が笑う。

「へぇ、そう。言ったの、彼」

 瞬間、顔が熱くなってゆく。
 何を言われているのか、いつものようには理解できないでいた。
 言葉を発せられない服部に、追い討ちをかけるかのような台詞が聞こえる。

「見てたら分かるもの。アナタだって、気付いていた筈だわ。それとも、本気で知らなかったとでも?」

 頭が、真っ白になった。

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