Forbidden fruits
「ほら、スプーン」
言って渡そうとするが。
上手く力が入らないのか、服部がスプーンを取り損ねて布団の上にポトリと落ちた。
「……仕方ねーな。食わせてやる」
「え。いや、ええて。自分で食えるし」
「落してんじゃねーかよ」
「たまたまや、たまたま」
「はいはい。いいから病人は大人しく看病人の言う事を聞く」
「えー……」
物凄く不服そうな。
嫌そうな声を出しつつも。
諦めたのか、スプーンを取り返そうとはしない。
「ほら、口開けて」
掬ったリンゴを乗せたスプーンを、服部の口先まで運ぶ。
渋々、といった様子で開いた口にそっと入れて、反応を待つ。
と。
「甘い」
ゆっくりと飲み込んだ後。
呟くように言って、笑顔を見せた。
が、そのすぐ後で。
「ちゅうか工藤。何でリンゴすりおろすだけでこないなっとんねん」
眉間にしわを寄せると、スプーンを持つオレの手を取ってじっと眺める。
「いや……切るのは適当にやったんだけど……する時に一緒に手もすったっつーか、なんつーか……。あー、けど、リンゴに混じったりしてねーから大丈夫!」
「そないな問題か。頭痛なってきた……」
手は取ったまま。
空いてる方で眉間を押さえて、ゆるゆると頭を振って。
やれやれと言った風に、大袈裟に息を吐いて見せた。
その姿は、殆どいつもの服部と変わらない。
「けど、ま。熱はんな下がってねーようだけど、昨日よりは元気になったみてーで良かったじゃねーか」
夜前は、救急車呼ぶか悩んだくらいには弱っていた。
それが今は、いつものように冗談めいた会話もできる。
安心して、やっと自分にも笑みが浮かんだ。
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