Forbidden fruits

「……寝てるか」

 家に戻って。
 キッチンでリンゴと格闘する事数分後。
 部屋を覗くと、服部は静かな寝息を立てていた。

「あーあー、掛け布団おもいっきしズレてんじゃねーかよ。ったく、熱で暑いからって……」

 サイドテーブルにトレイを置いて、乱れた布団を直してやって。
 汗で張り付いた髪をそっと梳くうと。

「……」

 小さな声を漏らして寝返りを打つ。
 その姿に、一瞬ドキリとして。
 そんな自分に衝撃を受けて思い切り固まった。

「……帰ってきとったんか。おかえり」

 触れられた感触で目を覚ましたのか。
 コチラの状態を全く分かっていないであろう、熱でふにゃふにゃの笑顔を向けて。

「工藤?」

 まだ固まったままのオレに、服部が小さく首を傾ける。

「あ……いや、悪い。起こしちまったな。はは……」

 慌てて手を引っ込めて。

「や、やっぱ何も食わねえってのは良くねーからさ。リンゴすりおろしてみたんだけど食えるか?」

 サイドテーブルのリンゴを取るフリをして立ち上がって。
 トレイに手を掛けたまま、頭に響く、自分の胸の鼓動を聞いた。

 冗談じゃない。
 動揺したのもあるにしたって、この響きは尋常じゃない。

「わざわざ、それ買いにさっき出掛けてったんか?自分こそ、ホンマに気ぃ遣わんでええのに」

 背後で、服部が起き上がる気配がする。
 取り敢えず落ち着け、と自分に言い聞かせ。
 トレイを持つ手に力を籠め、ゆっくりと振り返った。

「別に、気を遣ってるワケじゃねーけどな……」
「はいはい」
「起き上がって平気か?」
「ん。大丈夫」

 ベッドサイドに置いた椅子に腰かけて、もう一度服部を良く見てみるが。
 その頃にはしっかり言う事を聞いて鼓動も落ち着いていて。
 やっぱり、自分がちょっといつもと違っておかしいだけだ、と安堵の息を吐く。

 男が可愛く見えるなんて。
 そんな趣味はオレには無い。

 ……ハズだ。

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