The parallel world

 夕暮れの商店街。
 一軒の書店の、新刊コーナー。
 その中の一冊に。

「あ」

 同時に手を出し、互いの顔を見合う男子高校生二人。
 片方は少し驚いたように、じっと相手を眺め。
 もう片方は、それを不思議そうに眺める。

「……オレの顔に、なんか付いてる?」

 一人が尋ねると。

「いや……ちと知り合いに似とるように見えて……。けど、よう見たら似てへんかった。ははは……」
「ふーん」

 言いながら、後頭部を掻く姿を。
 目を細めながら見た後で。
 そっと本を手に取り。

「キミも、この本好きなんだ?」

 言って見せた表情は、とても人懐っこいもので。
 平次の他人への警戒心を解くには十分だった。

「え……ああ。じぶんもか?」

 平次の問いに、笑顔のまま一つ頷いて。
 ぺらり、数頁捲って見せる。

「昔っからこの本のファンなんだよね」
「ホンマに?オレもや、オレも。この本の工藤みたいになりたくて、ずっと……――」
「なあ」

 頁を捲っていた手を止めて。
 上げられた藤色の瞳が平次を捉える。

「良かったら、そこのカフェでお茶でもしながら話さない?」
「何やソレ。男相手にナンパか?」
「さて、どうでしょう」

 本を閉じると、それをそのまま平次に持たせ。

「奢りやったら付き合うてやってもええけど?」
「オッケー。じゃ、オレ先に行って待ってるから。会計済ませたら来てよ。コーヒーでいいよな?」
「あ……ああ」

 本を片手に、少し呆気にとられている平次に。
 ひらり片手を舞わせ、背を向け歩き出す。

「……本、買わんのか。ファンちゃうんかい……」

 呟いた声が聞こえたのか、聞こえてないのか。
 ナンパ男は、歩みを止めて振り返ると。

「あ、オレ。黒羽快斗ってんだ。よろしくな、服部平次君」

 言ってウインクひとつ。
 更に呆気にとられる平次を置いて、今度こそ向かいのカフェへと向かって行った。

「……ホンマにナンパやったらどないしよ……」

 扉の向こうに消えた快斗に。
 乾いた笑いを浮かべつつ。

 まさかな。
 呟いて、レジへと向かった。



 それぞれの世界で。
 それぞれの出会いが。
 それぞれの未来へ向かって、動き出す。

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