二人の記念日
黒羽と工藤は外見がよく似ている。
外見どころか声も似ているものだから、髪型を同じにしたら、気付かない人だって多く居る。
黒羽はよく、それで工藤の知人をからかったりしているのだが。
服部は一度も。
間違えた事も、騙された事も無い。
「……なあ、服部」
「なんや」
テーブルのクッキーをつまみながら、座ると同時につけたTVを観ていた服部が振り返る。
工藤を映す翠の瞳。
「お前には、オレと黒羽ってどう見えてんだ?」
「はーあ?」
何を言ってるんだ、と。
思いっ切り、呆れの色を含んだ瞳が問い掛ける。
「オレはそう思わねーけど。黒羽とオレ、双子みたいに似てるんだろ?けど。黒羽が騙そうとした時も、お前は騙されなかったじゃねーか。何でだ?」
幼馴染で、工藤の事をよく知っている蘭ですら騙されかかった事があると言うのに。
初対面。
黒羽が工藤の姿で目の前に現れた時も。
『誰やじぶん』
黒羽がいくら工藤のふりをしても通じなかった。
かつて、工藤の顔に整形した人物が犯人だった事件では、中々気付けなかったと言うのに。
「……何で、て」
服部の表情が。
呆れから、言いたくなさそうな。
酷く居心地の悪そうなものへと変わって。
「……分かるから」
視線は外れ、言葉も聞こえ難いものとなる。
「だから、何で分かるんだって訊いてんだろ」
関係自体差がついていて、工藤は工藤だと言った。
恐らくそれが答えではある。
けれど、別の言葉で聞きたくなって。
問い詰めるような自分を。
少し意地悪かな、と工藤は思った。
けれども。
「服部」
先程の仕返しのつもりもある。
だが。
困り果てている、その姿を見るのが好きなのも手伝って。
やめるつもりは更々無い。
「……ホンマ、いけずやな……」
その工藤の思考が分かるのか。
呟くと、ゆっくりと瞼を伏せて。
服部はひとつ、長い息を吐く。
そして、諦めたように口を開くと。
「……覚えとるから。工藤の纏う空気も、匂いも、息遣いも、体温もなんもかんもみな。オレの全てが、覚えとるから……せやから分かる。間違えたらしまいやろ」
ぽつぽつと、言葉一つ一つを呟いて。
ふい、と顔を逸らすと。
その後は無言でまたTVを眺め始めた。
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