Lunatic Hour

「ほんっと、ロクな事しねーな、あの女」

 遊びに来た黒羽に、紅子の愚痴を散々聞かせつつ。
 何杯目かのコーヒーを口へと運ぶ。

「……てかいいな、それ。オレも貰うかな……」
「ああ?お前、人の話聞いてんのかよ」

 真剣に考えてる風の黒羽に、呆れた声と視線を返す。

「だってさ。それ使ったら、平次がオレの事もどう思ってるか知れる訳だろ?そりゃ使いたいでしょ」
「バカだろお前」
「何でだよっ」

 黒羽には言わなかった、平次の消える間際の言葉。

『オレが惚れた、最初で最後の男や』

 つまり。
 男でそう言う感情を持ってる相手はオレだけって事。
 例え黒羽がアレを使っても、普段と何ら変わらない服部が現れるだけだろう。

 いや。
 普段よりは若干素直……かな。

「とにかく。あの女に言っとけ!お前の魔術は、オレには金輪際必要ねえ、ってな」
「……はいはい。学校で会ったら取り敢えず言っといてやるよ」

 けれどそれでも。
 黒羽なら本気で喜びそうだ、と何となく思って。
 ちょっとおかしくて、思わず笑った。

「って、何笑ってんだよ」
「なんでもねー……」
「うわ、感じわりーっ!」

 オレに黒羽が掴み掛って。
 何か文句を言おうとした、それと同時に。

「お。メールだ」

 携帯が鳴って、画面を開くと。
 画面に表示されている名前はアイツ。

「服部だ」
「え?なに。平次なんて??」

 開いたメールには。

「別にお前の事はなにも書いてねーけど」
「そんなの期待してねーよ。大体オレに用があるならオレの携帯が鳴るっつーんだよ」

 これから始まる、人生最大の謎解き開始の合図。

「取り敢えず。来週また泊まり掛けで遊びに来るってさ」
「マジでっ?!じゃ、オレもお泊りしに来るからヨロシク」
「バーカ。来んな、邪魔くせえ」
「うん。死ぬ程邪魔してやるから安心しとけ」
「ふざけんな」

 この謎解きが。

 本当に最大級に難解で。
 解くのに、まさか人生全てを賭ける羽目になるとは。
 流石にこの時はまだ思っていなかった。

 何個目かの扉を開いて。
 やっと奥に隠された、あの時の平次に辿り着くだけでもかなりかかって。

 それでも。
 この謎解きは、思っていた以上に楽しくて。

 非科学的な事は、普段あまり信じないけど。

 平次が現実だったなら、きっと来世もある筈で。
 そこでもまだまだ続けたい。

 なんて。
 本気でそんな事を思ったり。
 それ以外にも色々と。
 全てが始まるきっかけをくれた。

 これは、いつかの真夏。
 夢だったのかも知れない、不思議な夜の記憶。

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