Lunatic　Hour

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　いつからか。
　厄介な奴から、実はいい奴かも知れない、になって。
　友達から親友へと変わり。
　友愛が、恋へと変わった。

　だからと言って。
　その想いを告げる、なんて事はとんでもない事で。

　一緒に居るのが楽しくて。
　笑顔を見れたら幸せで。
　そんな時間を壊したくなくて。

　今で十分、と思う心の片隅で。

　コイツもオレを好きだったらいいのに、と。
　同じ想いだったらいいのに、と。
　その考えも捨てられなくて。

　気持ちを知りたかった。
　それは確かにそうだった。

　けど。

「……ほんまに、好きなんやなあ……」

　ぎゅっと固く瞑っていた瞳を開くと。
　平次は、まるで苦笑いのような表情を浮かべていた。

「オレなら、工藤の望むオレでおれるのに。工藤の好きにでけるのに。……アイツは、工藤の思う通りなんて動かへんで」

　平次の腕と身体が、ゆっくりとオレから離れる。

　視界に映ったその顔は、酷く寂しそうに見えて。
　けれど、何て言葉を掛けたらいいのか分からなくて。
　ただ、黙って見ているしかできなかったけど。

「そんでも。オレよかアイツを選ぶんやなんて。……工藤。お前、実はドＭやろ」

　言って笑った、その顔は。
　オレの良く知ってる顔だった。

　オレの好きな顔だった。
　だから。

　初めて、本当にコイツは服部なんだ、って。
　ずっと混乱していた脳が、そこでやっと理解した。

「誰がドＭだよ」

　こつり、額を軽く小突くと。

「お。いつもの工藤や」

　返る表情も、声も。
　全てがオレの知ってる服部のソレと同じ。
　違っているのは。
　オレを好きだと、ストレートに感情をぶつけてくる所だけ。

　けれどそれも。
　本来は服部の中にある一部。

「平次」

　普段は呼ばない、その名前。

「確かにお前が居れば、オレが望んでる通りの明日があるのかも知れない。相思相愛って分かってるし、それは楽で、楽しいんだと思う。けどな」

　恐らく、この先も呼ぶ機会は無いかも知れない。
　けれど呼び方なんてどうでもいい。

「同じ楽しさなら。お前とだけじゃなくて、アイツとも一緒に楽しみたいって思うんだ」

　意識していないと言うのなら、意識させてやればいい。
　見落としている真実に、導いてやればいい。
　例え本人が認めようとしなくても。
　事実は、一つしかないから。

「お前はアイツの一部だ。だからアイツの中に戻って、もう一度オレに会いってくれよ。アイツと一緒に」

　真顔に近い表情で聞いていた平次の顔が。
　ふ、と柔らかく解けた。

「……分かった。お前がアイツの心ん中にある扉を、全ての謎を解き明かして開けてくれる。そん時を楽しみにしてるで」

　にこり、微笑む平次の輪郭が。
　細かい光の粒で少しずつ霞んでいって。

「バーロ。オレを誰だと思ってんだよ」

　言って、向けた笑みに。

「工藤新一。オレが惚れた、最初で最後の男や」

　いつか見た。
　自信たっぷりの瞳で答えて。
　紅子の魔術が生んだ幻。

　平次は消えた。

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