Lunatic Hour

 今、目の前で曖昧な笑みを浮かべるコイツは。
 つまるところ。
 服部であって、オレの知る服部ではない。

 実体を持っていて。
 オレの知る顔で。
 オレの知る声で。
 オレを好きだと、照れも、隠そうともせずにきっぱりと言い切る。

 ずっと奥の方に閉じ込められているオレ、とコイツは言った。
 それってつまりは。

 服部がオレを好きだって事だよな。

 けど、そんな素振りを見せた事は無かった。
 寧ろ好かれてるのかも怪しい時すらある。
 本当は嫌いなんじゃねーのか、と思うような事を言ったり、やったり……。

「せやからな。工藤ん事はほんまに好きやねんて。まぁ、本人は自覚ゼロやろうけど。っちゅーより、意識してへん、て方が正しいな。工藤は連れや、親友や、て思ってるし。せやから好きなんも当たり前。恋愛感情っちゅうのがどんなモンか、それは知っとる。けどまさか、自分が工藤にそないな感情持つとは思ってへんし、知識と感情が噛み合えへん。噛み合えへんモンに注意は向かん。そんでオレは奥に押し込められとった、っちゅう訳や」

 コイツの話を信じるならば。
 服部はツンの度合いが非常に高いツンデレ、って事になんのか。

 そりゃまた微妙だな……。

 話を聞きながら、そんな事を思っていると。

「……なあ。オレの話聞いとる?」

 戻した意識と瞳が捉えたのは。
 くっつくかと思う程に距離の近い顔と、向かい合う瞳に映る自分の姿。
 不意打ちに、不覚にも恐らく耳まで赤くなったであろう顔が熱い。

「……っ?!ちけーよっ!!」

 慌てて退こうとするのを、両手を掴まれ止められて。
 先程までとは違う、潤んだような瞳がまた近付く。

「服部っ」

 制止するように、半ば叫ぶような声で名前を呼んだ。

「ややこしいし。オレん事は平次でええ」

 その呼び方は自分と認めない。
 まるでそう言っているかのように。
 
 閉じられる瞼。
 柔らかいモノが唇に触れて。

「オレにまで、遠慮する事あらへんで」

 甘く、囁くように言う。

 平次は。
 やはりオレの知っている。
 オレが好きな、服部じゃない。

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