Lunatic Hour

「おかえりー」

 帰ったオレを、玄関で出迎えたのは。
 今別れたばかりの、服部の満面の笑顔。

「……は……?」

 混乱し、まともに考えられない頭のオレの。
 腕を掴んで引き入れて。

「暑かったやろ。冷コ用意してあんで」

 またも向けられる笑顔は。
 たぶん、オレが今まで見てきたモノとは少し違う。

「いや……つーかお前……なんで居んの?」
「なんで。うーん……なんで……」

 用意してある、と言っていたアイスコーヒーを運んで来て。
 テーブルに置きながら、呟くと同時に考えているようだったが。

「工藤と一緒に居りたいからや。他は思いつかん」

 ニ、と笑って答えて。
 ソファに座った横顔は。

 うん。
 少しどころか、だいぶ何時もの服部とは違っていた。

「一緒に居たいって……」

 正直、そんなセリフ言われたら嬉しい。
 まず言わないであろう言葉だし。
 
 けど。

「工藤ん事、めっちゃ好きやし。せやから、ずっと一緒に居りたい。アカンか?」

 オレの知ってる服部は、こんな事を言うヤツじゃない。

 危うく、持ってたグラスを落とし掛け。
 滑り落ちるのを已の所で止めた。

「……お前……誰だよ……?」

 真っ直ぐオレを見る。
 その姿は、紛れも無く服部。
 だけど……。

 オレの脳裏には。
 あの小瓶と、光を浴びた服部が蘇っていた。

「せやな……。普段はずぅっと奥の方に閉じ込められとるオレ。そんなとこかいな」

 失敗か、驚かそうとしただけだと思っていた。
 けれど実際は。

『貴方の役に立つモノよ』

 非科学極まりない。
 紅子の魔術が生み出した何か。
 そうとしか思えない。

「ドッペルゲンガーとか……そんなヤツ?」
「うーん……ちとちゃう。けどま、似たようなモンやろな。オレの本体、今は新幹線の中やろし」
「けどお前……触れるよな」

 手を伸ばして腕に触れれば。
 確かに伝わる、生きている人の感触。

「そらそやろ。幽霊ちゃうし」

 自分の腕に触れるオレを。
 服部は可笑しそうに見て、けらけらと笑った。

[ 164/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -