Lunatic Hour

 タコ焼き、綿菓子、カキ氷。

 週末、服部が遊びに来たので。
 二人で近所の祭に出掛けた。
 その出店で。

「……なんやアレ。めっちゃ怪しいで」

 服部が立ち止まり見ている方向、その先には。
 一際目立つ、際どいコスチュームを纏った若い女と、そのお付らしい男の姿。
 看板には、『魔術屋』と胡散臭い文字が光る。

「……」

 目が合うと。
 女がニ、と笑った。

「ようあないなカッコでけるな……て、工藤。なんや、あんなんがタイプか?」

 その女には見覚えがある。
 確か黒羽の同級生で自称魔女。
 紅子とか言う女だ。

 この時代に魔女とか。
 非現実的な、とバカにして。
 あいつの魔術とやらで酷い目に遭った事がある。

 その記憶が蘇って。
 目頭を押さえて、眩暈を堪えているオレを。
 振り返った服部が、怪訝そうに覗き込んでいた。

「……あ、いや。そうじゃねー……」

 なんとか、笑みを作った。
 丁度同時くらいに。

「そこのお兄さん達。面白いモノがあるわよ。寄って行かない?」

 真っ直ぐにこちらに視線を向けて。
 怪しげな笑みを浮かべ、手招きをする紅子が映る。

「……工藤。お前ん事見てんで。呼ばれてんのオレ等ちゃうか」
「ははは……みてーだな」

 乾いた笑いを浮かべるオレと。
 あからさまに不審気な視線を向ける服部にも構わず。
 なかなか動かないオレ等に業を煮やし、紅子はつかつかと近寄って来る。

「聞こえなかったのかしら。それとも無視?相変わらずの良い性格ね、光の魔人さん」

 間近で仁王立ちするその姿は。
 コスチュームもあって、女王様以外の何者でもない。

「その変な呼び方やめろっつってんだろ」

 ついでに、その変なカッコも。

 思うだけで、そこは取り敢えず口にしないが。
 相手を油断させる為だか何だか知らないが、無駄に露出が多過ぎるその恰好は。
 今この場所にはかなり似つかわしくなかった。

「ふふ。じゃあ、工藤君。貴方におススメの商品が有るわよ」

 口にしない思いを知ってか知らずか。
 私は気にしない、とばかりに紅子が自信満々に胸を張る。

「アンタの作ったモノで、ロクなモノがあったかよ」
「あら、酷い事言うのね」
「事実だろ」
 
 やれやれと息を吐くと。
 視界の端に、奇妙なモノを見るように、オレと紅子を交互に眺める服部が映った。

「……知り合いやったんか?」
「……あー……うん。まあな」
「……ふーん……」

 服部の瞳からは、不審の色が全く消えない。
 けれど、紅子はそれすら楽しんでるかのようだった。

「色黒に大阪弁。へえ、貴方がそうなの」

 変らぬ表情のまま。
 紅子が舐める様に服部を見て。

「何がや。いけ好かんやっちゃな」

 みるみる服部の表情が不機嫌へと変わる。

 合うとは思って無かったが。
 やはりこの二人の相性は最悪なようだ。
 服部は、自分棚上げで上から目線を酷く嫌うし、紅子は常に上から目線。
 合う訳がない。

「つーか、オレ等は祭を楽しみに来たんだ。お前の暇つぶしに付き合ってる時間はねえんだよ」

 取り敢えず、これ以上服部が不機嫌になる前にこの場を離れたい。
 思って、二人の間に割り込むと。

「つれないのね。まあいいわ。じゃ、コレ」

 あっさりと退く姿勢を見せた、紅子の手には小さな小瓶。
 それを無理矢理握らされる。
 
「……何だよ、コレ」
「貴方の役に立つモノよ」
「はあ?」

 訝しげな視線を向けるオレに、一つ曖昧な笑みを浮かべると。
 何に使うモノなのか。
 どう使うモノなのか。
 一切の説明も無しに、紅子はさっさと元居たスペースへと戻って行った。

「なんなん、あのねーちゃん。工藤、こないけったいなモン捨ててまえ」

 ひょいと小瓶を持ち上げ、中を覗く服部から。
 慌てて小瓶を取り返して。

「バーロ。んな危険な事出来っか!」
「危険て……爆薬でもあるまいし」

 手の中にある小瓶を眺める。
 服部は少し驚いたように此方を見た。
 確かに、見た目はただの小瓶だが……。

「ある意味、爆薬より危険なんだよ」

 言って、小瓶をそのままポケットへとしまう。

「意味分からん」

 呟いて、人混みに戻ろうとする服部の後を追いながら。
 ちらり後ろを振り向くと。
 紅子の、意味有り気な笑みが映って。
 人の波が、その姿をオレの視界から消した。

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