すたあの恋

「…何で…?」

 勢いよく扉を開いたその人の姿に驚き、危うく手にした道具を落としてしまいそうになった。
 慌てて道具を長机に置き、彼を振り返る。
 その、次の瞬間。

「平次」

 会いたかった、と。
 言うと同時にきつく抱き締められ、平次の瞳が大きく開く。

「えっ、ちょ…」

 誰か来たら…。
 離そうと試みるが、有り得ない力で抱き締める新一の腕は全く解けない。

「…捕まえた。今度は離さねぇ…。頼むから、離さないでくれ」

一瞬。
 泣くのかと思った。

「お前が居ない世界は…つまんねぇ」

 けれど、小さく震えてはいるが、涙は流していないようで。

「やばい…すげぇ嬉しい…。今なら、死んでも悔いねーかも」
「…アホ言いなや」

 寧ろ、見てるこちらが恥ずかしくなってしまうくらい、幸せそうに微笑んでいるから。
 平次がずっと持ち続けていた不安など、その微笑の前には消し飛んでしまった。

「お前に今死なれたら、後追ってまう。……ま、嘘やけど」
「嘘吐け。本気だろ」

 きっと、新一に負けていないぐらいの微笑を向けて。
 目の前の。
 テレビじゃなくて。
 ポスターでもなくて。
 現実の、本物の新一を確かめるように強く、その体を抱き返した。

「オレ、なーんも持ってへんで」

「何も持って無くていい。モノならオレが持ってる。平次は、平次で居てくれたら、それだけでいい」

「オレだけ得やな」

 に、と平次が笑む。

「そうでもねーよ」

 平次の言葉に笑って。
 オレも色々もらうから。
 そう言って、新一は平次の唇に、己のそれを重ねた。



「ホントに、伝説の大スターになりやがって…」

 新聞を広げ、コーヒーを片手に快斗がやれやれと息を吐く。
 紙面には、『工藤新一。人気絶頂の中に何故?!突然の芸能界引退!!』の文字。
 その先は憶測の記事が長々と続く。

「オレの可愛い平次まで奪いやがって。これで幸せになんなかったら、オレがぶっ飛ばすかんな」

 ぴし、と指先で記事の写真の中笑う、新一の頬を弾いて笑った。

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