輝ける星
「お前は、オレの事が好きなんだと思ってた」
見抜かれていた。
その事実に絶句する。
完全に固まってしまって、声も出ない平次を分かってか分からないでか。
新一はただ言葉を続けた。
「だから、オレが蘭と別れたら、告ってくんのかなってずっと思ってたんだけど。そのきっかけもチャンスも、結構作ったつもりだったけど。でも全然告ってくる気配ねーしさ。おまけに、七夕なんてナイスイベントもスルーだろ。やっぱオレの勘違いだったのか、ってさ。カッコわりー上に、相手が相手だ。はは、流石にダメージでかいぜ」
声は明るい。
けれど、実際大打撃はくらっているのであろう事は、何となく感じる。
それ以上に、平次は相当ダメージを受けていて、戻って来るのに時間はかかってしまったが。
「……いつからや。いつから気付いとった……?」
やっと絞り出した声は震えて。
携帯を持つその手すら小刻みにガクガクと震えた。
今、目の前に新一が居ない事を、心底良かったと思う程の震え。
「コナンだった時から。っつーか……そう聞いてくるって事は、お前やっぱり……」
しまった。
思った時は既に遅い。
「オレの推理、外れてなかったんだな」
恐らく口元に笑みを浮かべている。
声から、新一が今しているであろう表情がありありと浮かんで。
震えが止まる代わりに、かっと全身が熱くなるのを感じた。
「おい、服部。外、出て来い」
「……へ?」
「いいから。今すぐ出て来い。早くしろよ」
聞き返すより先に通話は切れて。
携帯を眺めて、一寸の間呆けるが。
「出て来いて……まさか……」
ぱちんと、携帯を閉じると。
椅子から立ち上がり、勢いよくドアを開けて部屋を出る。
駆け降りる階段。
その先、玄関を抜けて。
傘も取らず、濡れるままに走り着いた門の脇。
「遅い」
腕組みしながら、じとり平次を見る。
その人はまさに今さっきまで、電話で話していた相手。
「……工藤……なんでここに」
今日は平日。
普通なら学校。
東京に住んでいる新一が、平次の家の前に居るなんて事は無い筈の日。
「織姫が待ってるかと思ってよ。来てやった」
「誰が織姫……て、そうやのうて。お前、ガッコは?」
「行ったよ。だからこの時間なんだろ」
腕組みを解いて、自分の着ている制服を抓んで見せる。
その肩は、少し濡れていた。
「それより織姫。彦星様がこうして会いに来てやったんだ。なんか言う事ねーのかよ?」
制服を抓んでいた指を離して。
そのまま腰に手をあて、少し斜めに見てくる姿は。
はっきり言って態度がでかい。
と言うより、彦星様と言うより俺様だ。
「織姫ちゃうわ。で、なんかゆう事って?」
腕組みしながら、その姿を目を細めて見返して。
こちらも態度はでかく、姫と言うより女王様。
「今日は願いの叶う日だ」
「やから?」
「これが最後のチャンスだっつってんだよ」
見抜かれて、知られていた事に気付かず過ごしていた。
それを知らされただけでも十分恥ずかしいと言うのに。
その上、それを今更言葉で伝えろと言うのは。
もはや羞恥プレイ以外の何物でもない。
真っ直ぐに、自信に満ちた瞳が平次を捉える。
耐えきれなくて、視線を外すと。
ぎゅ、っと。
組んだ腕のまま、平次は自分を抱き締めるように腕に力を込めた。
「……オレのせいで、別れたとかゆわへんよな……」
知っていたのがコナンの頃ならば。
新一だって、悩んだり色々考えたりした筈だ。
それが影響したなんて言われたら、今後蘭に合わせる顔が無い。
「まあ、ある意味お前のせいもあるかもな」
言われて。
平次の自分を抱く手に、更に力が籠る。
その様子に、新一が小さく苦笑を漏らした。
「つっても、お前が悪いワケじゃねーよ。言ったろ?なんか違ったって。蘭の事は好きだ。けど、違ったんだよ」
「なにが……」
「蘭に対する気持ちと、お前に対する気持ちと。その違いに気付いちまった。これは、オレの問題。お前のせいじゃねえ」
幼馴染に対する好きと、新一に対する好きと。
自分も、その違いに気が付いた。
だから正式に付き合う事はしなかった。
気付いてしまえば、嘘を吐き続けられない。
それは平次も良く知っている。
同じだよ。
新一はそう言っていた。
確かに、もしかしたら、ずっと同じだったのかも知れない。
「まあ、それはもういいとして。早くしろ。そんなに時間ねえんだから」
言って、新一が少し焦りながら腕時計をちらり見る。
時間を気にしていると言う事は、本気で話を聞く為だけにここに来たと言う事。
わざわざ東京から大阪まで。
10分20分の距離ではないと言うのに。
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