輝ける星

「……なんでマッハで別れたんや、工藤……」

 今後は男の友情をメインにしてやる。
 その言葉に嘘は無く。
 あれ以来、平次の携帯には頻繁に新一からのメールが届き。
 前は無かった、どうでもいい電話で通話も増えた。

「あー、もう。金持ちのねえちゃんでも、宮野のねえちゃんでもどっちでもええ。他でもええ。誰か工藤掴んで放さんどいてくれへんかなー」

 大変に失礼な事を言いながら、平次は両手で頭を抱えて机に伏した。
 その横で。
 置いていた携帯から鳴り響く着信音に、ビクリ平次の肩が震える。

 恐る恐る開くディスプレイ。
 表示されているのは、当然のように『工藤新一』の文字。
 しかも電話。

「……ホンマに。忘れる暇もあれへんがな……」

 暫く出ずにディスプレイを眺めてみるが。
 切れそうもない音に、また溜息を吐いて通話ボタンを押す。

「……もしもし」
「おせぇよ。……つーか忙しかったか?悪ぃ」

 そう思うなら架けるな、と心の中でツッコむが。

「別に。ほんで?なんか用か?」

 なるべく気取られないよう、普段通りの声を出す事に努めて。
 癖になってしまっている溜息も、出ないように細心の注意を自分に払った。

「用って用も無いんだけどさ」

 なら架けるな、と二度目の心のツッコミ。

「今日、七夕だよな」
「せやな」

 返して、窓の外に目を向ける。
 家に帰って間もなく降り出した雨はまだ続いていて。
 今年の七夕は生憎の雨模様。

「天の川見えねーな」
「明るいし、元々見えんやろ、東京は。コッチは雨やな」
「織姫と彦星。今年は会えねーのかな」
「あぁ?」

 気障なセリフが得意な事は知っているが。
 平次相手にこんな事を言うのは珍しい。
 自分相手にセンチな発言なんて工藤らしくない。
 そう思いながら、平次が続ける。
 
「ちゅうても、雲の上は常に晴れや。会えてるやろ」
「あー……そうだな」
「そない言えば」

 何となく、いつもと感じの違う工藤に気付かない振りで。
 ゴソゴソとポケットを漁って、帰りに貰った短冊を取り出す。
 思いの外綺麗なままのそれを、少し驚いて見ながら。

「今日、帰りにイベントやっとって。なんや短冊掴まされたのやけど。工藤、お前なんか願いあるか?代わりに書いて、庭の笹にでも括り付けたんで?」

 彼の瞳の色の短冊に、話している相手を重ねる。
 映るのが、自分だけなら苦しむ事も無いのに、と。
 思って、すぐにその考えを払おうと頭を振る。

「願いか……オメーは?ねーのかよ」
「オレはー……」

 本当に叶うのならば、書きたい願いなど幾らでもあって。
 一番の願いは、頭を振ったぐらいでは消えない。
 別れたと聞いた時から復活してしまった、この想いの成就ではあるけれど。

「特にあらへん」

 正直な所、それが叶ったとして。
 その後どうしたいとか、具体的な事はなにも考えてはいなくて。
 ただ一緒に居られたらとか、同じ想いで居てくれたらとか。
 初恋みたいな、恋に恋して憧れてるような。
 そんなふわふわした感覚しかないから、今のままでも同じなような気がしないでもない。
 だから実際、短冊に込める程の願いでもないとも思う。

「そうか……ねーのか……」

 そんな事を思っての返答だったが。
 工藤の反応がやけに静かで。
 声が少しだけ沈んだように聞こえたものだから。

「……あらへんと、なんかうまない理由でもあるんか?」

 自分の気持ちがバレないように、との予防線としても。
 少し対応が冷た過ぎたのかな、と。
 心配になって、トーンを落した声を掛けて。
 神経を集中させた、その耳に。

「オレとの事でも願うんじゃねーかなって、思ってたんだけど。推理外したな」

 そんな言葉が飛び込んできて。
 一瞬、平次は自分の耳を疑った。

「……はい?」

 それは、男の友情が続きますように、とか。
 そう言う事を思って言ったものなのか。
 それとも。

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