輝ける星

 平次が、頻繁に溜息を吐くようになったのは。
 丁度一週間ほど前からで。
 きっかけは、新一から架かってきた電話にある。

「……へ?今、なんて?」

 電話の向こうで呟かれた言葉は、実際ちゃんと耳には届いていたが。
 信じられない、と言うか。
 実に予想外のものだったので。
 平次は携帯を持ったまま、恐く間抜けな表情で固まってしまった。

「だから……蘭と別れた」

 もう一度、しっかりと聞こえた言葉に。
 ふるふると頭を数度振って。
 正気に戻った平次が。

「なんでやっ?!つい最近まで、あないに惚気とったやないけ!」

 電話だと言うのに、つい大きな声を掛けてしまったのも無理は無い。
 平次の言葉通り、本当につい数日前まで。
 上手くいっていると、メールには書いてあったし。
 惚気としか取れない言葉を、電話でもメールでも言われていた。
 それが。

「原因は?お前、なんぞヘマこいたんか?」
「あのな……そんなんじゃねーよ」

 そうじゃないなら何だと言うのか。
 平次の頭の中が『?』で埋まる。

「つーか、お前も言ってたじゃねーか。なんか、違ったんだよ」
「……は?」
「ほら、お前が遠山さん振った時。恋かっつったらそうじゃないって。愛かも知んねーけど、恋愛とか……そう言うのとはなんか違うって。お前、そう言ってたろ」

 確かに、そんな事を言ったような記憶はあった。
 和葉と一時期、付き合っているような、いないような曖昧な期間があって。
 その後、和葉から本格的に告白された時に。
 真面目に考えてみて、出した答えがそうだった気がする。

「いや……そうかも分からんけど。オレ等とお前等とはちゃうやんか」
「同じだよ。幼馴染で、ずっと近くに居て。近過ぎて見えなかったモンは、単純に気持ちだけじゃなかったっつーこった」
「つーこった、て……。なんでそないサッパリしてんねん」

 自分の時とは違って、仮にも本当にお付き合いしていた相手と別れて。
 それも、ずっと好きだった相手で。
 どうしてこんな声も普通で、落ち込む素振りも無いのか。
 面と向かっている訳じゃないから、実際の新一がどうであるかは平次には見えてはいないが。
 強がっているにしても、あまりにも普通過ぎて逆に怖い。

「ま、いいじゃねーか。取り敢えず、そう言う事だから。今後は男の友情をメインにしてやるよ。喜んで誘いには付き合え」
「いや……せやから……」
「なんだよ。オレに付き合うのが嫌なのかよ」
「嫌やないけど……」
「ならいいだろ。じゃ、また連絡する」

 言うと一方的に通話は切れて。
 つーつーと、電子音だけが平次の耳に響いた。

 その直後からだ。

「……はー……」

 新一の事が頭を過ると、同時に溜息が出てくるようになったのは。
 そして、それが頻繁と言う事は。
 新一が頭に浮かぶ回数が多いと言う事。

 その理由は理由で、別にある。

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