I can still fall in love with you from my heart

「したら訊くなやアホンダラ」

 言ってる科白と、返る表情は全く合っていなくて。
 今日見た表情の中では、たぶん一番の微笑。
 男っぽいのに可愛い。
 きっと、服部だからこその、その表情は。

 オレだけに見せる。
 オレだが見れる、特別な顔。

「今日。ホントに疲れたのはお前だろ?」
「……なんで?」
「オレの為にムリしたから」
「え」

 梳くように、髪を撫でてやりながら。
 変化するその表情に、思わず噴き出しそうになるのを堪えて。

「覚えてたんだろ?前にオレが言ってた話」

 手を止め、首を傾けるようにして訊けば。
 はー……――、と長い溜息の後で。

「いつ気ぃついたんや」

 言った表情は、ガッカリしているような……複雑な表情だ。

「ついさっき」

 答えたら、更に小さなため息が服部から漏れた。

「気ぃつかんままでおったらええのに。何で気ぃつくんや」
「そりゃ自分で言った事だし。きっかけがあったら、いつ思い出しても不思議じゃねーだろ」
「そらそうやけどー……」

 不満そうに呟く。
 その横顔に指先で触れて。

「まぁ、本気で嫌がらせかと思ってたけどな、最中は」

 今日一日を思い出して笑うと。
 片眉だけ上げ、こちらを向いた服部が。

「はーあ?嫌がらせぇ?」

 なんで?と表情で語る。

「ホントにさ……バレンタインの再来かと思った」

 女の子とカップルしか居ない空間に連れていかれて。
 周りの特異な視線を独占して。

 違ったのは、服部が始終笑顔だった事。

「あん時は……確かに、嫌がらせのつもりやったけど……」
「わーってるよ。あのケーキ屋。前に、一緒に観てたテレビで、オレが実物見てみたいっつった所だ」

 まぁ……ネタで言った、ってのもあるし。
 実物が、よもやあそこまでデンジャラスとは思ってなかったけど。
 
 夢見がちな店内。
 カップルシートを思い出したら、思わず苦笑いが込み上げてくる。

「それ覚えてて、頑張ってくれたんだろ?あーゆー場所、ホントはすっげー苦手なクセに」

 言いつつ、ゆっくりと身体を起こして。
 見上げる角度から、正面に変わった服部の。
 少し困っているようにも見える、視線を外したその表情は。
 さっきまでの男っぽさは少なくなって。
 普段より、子供っぽくも見える。

「……そんな……カッコええモンちゃうわ。行ってみたいゆうてたの、覚えとったのもあるけど。諦めてくれるかも分からん、て。そう思ったから、連れてっただけで……」

 悪戯が見つかった時の。
 そんな、バツの悪そうな。

「オレは……一緒に居れば。そこがどこでも、何をしてても。何でもええと思ってるけど。工藤は……普通のカップルが行くようなトコ行ってみたい言うし、したがるやろ」

 外れたままの瞳が揺れて。
 ぎゅっと握られた拳と、同時くらいに瞳が閉じた。

「けど……どう頑張ったかて、オレも工藤も男やねん。世間一般の、普通のカップルにはなられへん。……同しには、なられへんねん。せやから、こんで諦めてくれたらええって」

 次に開いた瞳は、真っ直ぐにオレを捉えて。
 その色は、少し辛そうだった。

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