Special day

「じゃあ、服部。もっとこっち寄って」

 頬に当てていた手を後頭部に回して、そのままゆっくり引き寄せて。
 触れた唇から伝わる気持ちは、思いが気のせいじゃない事を証明している。
 アルコールが無くても酔えそうな程に、甘い……――。

「誕生日くらい、普段言ってくれねー言葉とか聞きたいんだけど?」

 笑みで細まる、自分が映る深翠。

「拒否権は?」
「オレの好きに決めていいんだろ?」

 言葉が無くても、本当は十分過ぎるぐらい。
 今日は思いが溢れてるけど……。

 服部の唇が、今日のうちにその言葉を紡ぐのを見たい。

「……一回しか言わへんで。よー聞けや」

 瞼を伏せて、深く深呼吸をひとつ。
 開かれた服部の瞳が、もう一度オレを真っ直ぐに捉えて。

「好きや。オレと同じ時代に、産まれてくれてありがとう。愛してる」

 ゆっくりと。
 ひとつひとつ、大切に。
 紡がれてゆく言葉。
 そして、終わると同時に外された視線と、みるみる赤くなる横顔。

「あー、恥っず!何の羞恥プレイやコレ……アカン、アカン……ホンマかなわんわ」

 顔を背けたまま、掻き毟るように髪をかき混ぜながら。
 ぶつぶつと文句を言うその姿が可笑しくて。
 思わず吹き出す。
 と、横目にじとり、睨むように見てきたが。

 普段なら絶対言ってくれないであろう言葉も。
 照れているその姿も。
 全てが本当に愛おしくて。

「悪ぃ。茶化してる訳じゃねーんだ。あんまりカワイイもんだから、つい……」
「……しっかり茶化しとるやないけ……」

 嬉しさでふにゃふにゃの顔が、服部には茶化してるように見えてるようで。
 増々拗ねた様な表情になるのが、更に愛しさを増加させた。

「違うって。本当に」

 顔を背けられた時に外れて落ちた手を、再度伸ばして背中に回し。
 引き寄せて、しっかりと抱きしめてから。

「最高の誕生日だったよ。ありがとな」

 言って、ぽんぽんと背中を叩くと。

「……どういたしまして」

 答えた服部の腕も、オレをしっかり抱き返してくる。

「愛してるよ」

 耳元で囁いて。
 そのまま唇で耳に触れ。

「愛してる」

 朝とは違う、ありったけの愛しさを乗せたキスを。
 耳から首筋へ、首筋から鎖骨へと。
 身体に愛を刻む様に。
 服部が紡いだ言葉と同じく、ひとつひとつ大切に落していって。

 初めて過ごす、恋人との誕生日は。
 特別で、思い出に残るいい一日。
 そんな記憶で、その幕を閉じた。



 そして、その日以来。
 服部の口から、『愛してる』なんて言葉は、二度と聞けていない。
 一生に一度くらいの。
 これは思い出と共に、本当に特別だった、誕生日の話。



 I didn't know the meaning of my love and happiness until I met you.
 Thank you for having discovered me.
 I'm really glad I met you.
 Please keep holding my hands.

 No matter how much time goes by, I love you.

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