Special day

 それから、消灯されるギリギリまで夜桜の道を歩いて。
 その後レストランで食事をして。
 ホテルに着いた頃には、誕生日の時間も残り僅かになっていた。

「あー、朝の時点に戻りてぇ」

 あの時、ちゃんと服部の話を聞いていれば。
 危うく別れの危機に遭遇する事も無く。
 服部の機嫌も恐らくずっと良いままで。
 もっと甘い、充実した誕生日を過ごせていたのかも知れない。

「過ぎた事を悔やんだかてどーにもならん。ええやないか。桜も綺麗やったし、飯も美味かったし。オレの組んだ予定通りなんやから」

 風呂からあがって、タオルで髪を拭きつつ。
 しゃがんで冷蔵庫を漁る服部に。

「喧嘩も予定通りかよ」

 言ってじとり見ると。
 視線に気付いて、立ち上がりながら、服部がこちらを向いた。

「喧嘩せぇへん事自体少ないやんか。お前、いっつも怒ってばっかやし。まぁ、朝っぱらから強制猥褻紛いな事されかかるっちゅーのは……流石に予定外やけど」

 言うと。
 手にしたミネラルウォーターのキャップを外して、視線をこちらに向けたまま、ボトルを傾け喉を鳴らす。
 ボトルを下ろして、不敵な笑みを浮かべ。
 空いてる手の甲で唇を拭う、その姿は。
 風呂あがりのせいか、常より少し色っぽい。
 そのつもりなのかは知らないが、挑発以外の何物でもない、と思う。

「いつも怒ってばっかなのはお前だろ。……で、この後の予定は?」

 ボトルをテーブルに置いて、近くに腰を下ろした服部の。
 頬に、片手を伸ばして指先で触れる。

「なーんも。せやから、本日の主役が好きに決め」

 真っ直ぐに向き合う瞳が、誘っているように見えるのは。
 今日に限っては、多分気のせいじゃないだろう。

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