すたあの恋

 また、ひとりの静かな生活が戻ってきた。
 テレビをつければ、工藤新一はいつでも笑顔を向けていたけれど。
 先日まで、この部屋で自分と過ごしていた彼とはどこか違う。

「…ホンマに現実やったんかな」

 一人で飯を食べながら、画面に映るその人を眺めてポツリ呟く。

 全部、夢だったのかも知れない。
 彼が帰ったその夜に思った。
 そう思った方が、随分と気が楽だった。
 新一がそうだったように、平次にとってもこの1ヶ月はとても楽しいものだったから。

 確かに色んな苦労はした。
 本当はあまり得意ではない料理も、新一が喜んでくれるから頑張ったし、早く家に帰れるように、バイトも普段より頑張って残業は避けた。

「なんでもない事でよぉ驚いとったなぁ、あいつ」

 新一の色んな表情を思い出して、ふと一人思い出し笑いをしてしまう。
 そして、酷い虚無感に襲われた。

「…。何でお前、有名人やねん。何処に居っても姿が見れる。酷やで、ホンマ」

 俯いてぽつりぽつりと呟く平次に、テレビの中、また新一が笑顔を向けていた。

 

 ここに居たい。

 戻る前、彼は言った。
 芸能人の工藤新一を消して、ずっとここで過ごしたいと。
 認めなかったけれど、一番そうしたかったのは、本当は自分だったかも知れない。

 何かしていても。
 何かを見ていても。
 新一に話したいと思ってしまう。
 きっと彼は、楽しそうに自分の話を聞いてくれる筈だ。
 どんなくだらない事でも。

 多分自分は、新一に恋をしている。
 気付いてしまって、平次の心は更に暗い影に覆われた。

[ 286/289 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -