Special day
「……なんでいきなり青森……」
呆然としている余裕もなく。
取り敢えず、そこから更にローカル線に乗り継ぎ。
最終的に、着いた所は夜の弘前城。
ライトアップで美しい、桜の名所。
「満開や満開!ほれ、見てみ。ものごっつ綺麗やぞ」
本気ではしゃいでいる服部の、その背後に広がる、薄紅色した綿あめみたいな桜の木々は。
ライトに照らされ、幻想的な雰囲気を昼よりも強めていて。
綺麗、と言う一言では言い表せないような風景だ。
「時間掛かったけど、来て良かったやろ?」
桜と同じく満開の笑顔。
その前を、風に散るいくつかの花弁が過ぎる。
「確かに、怖い位綺麗だけど……オレの誕生日に、わざわざ何でココ?」
服部との今までの会話で、青森の話が出た事は無かったし、別にオレの思い出の地と言う訳でもない。
訪れるのに、誕生日を選んだ理由が分からなかった。
「いや、お祝いゆーたら花束やな、て思ってんけど。お前の好きな花で花束拵えてもろても、それ持って歩くの恥ずいやないか」
まぁ、そりゃ確かにな。
思うけど、それがそのまま青森には結びつかない。
「で。何で青森?」
もう一度訊くと。
服部は、に、と笑って。
「ここより下は散ってもうてるし、上はまだ早い。工藤の誕生日付近で満開なん、ここしか思いつかへんかった。花が気持ちを伝えてくれるから、特別な日には花束を贈る習慣があるのやろ?」
「はあ……」
言っている意味を解りかねているオレをよそに、くるり背を向けると。
徐に両腕を広げて。
「桜はオレの好きな花やから。せやから、この桜……この景色ぜーんぶがオレの気持ちや。ちっこい花束なんかで纏められへん」
絶句。
常々。
好きだと、愛していると言えば。
そんな恥ずかしい科白をよく言えるな、と言うくせに。
「まぁ、世界中の桜みな足しても、ホンマは足らんけど」
そんな言葉より、よっぽど恥ずかしい科白を言っている事を。
多分、コイツは分かってないんだろうな……と思う。
「誕生日おめでとさん、工藤」
振り向きながら、服部の唇がオレの名前を紡ぐより先に。
歩み寄って、思い切り身体を抱き締めた。
「おわ……っ?!ちょぉ、工藤っ」
周りの人を気にして、慌てて離れようとする身体を。
放すまいと、両腕に更に力を込めると。
諦めたのか何なのか、服部の抵抗が止んだ。
「人が見とる」
いつもなら、強い口調で言うその言葉も。
今は静かで優し気だ。
「いいよ。どうせ全くの他人だし」
「そーゆー問題ちゃうやろ」
抱き締める力を少しだけ弱めて、顔を向い合せれば。
クスリ。
小さく瞳が笑った。
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