Special day
互いにそのまま、無言のままで。
それからどのくらいの時間が過ぎたのか。
恐らくは、思うほど長い時は経っていない。
「なんで、いつもこうやねん」
ぽつり、服部が呟いた。
「工藤の誕生日やから……喜ばしたくて、一生懸命考えたのに」
泣いてる訳ではないだろうが、顔を膝に埋めてでもいるのか。
声がくぐもって聞こえる。
「なんで、いつもちゃんと伝わらへんねん」
最後の方は消えそうな声で。
その後はまた、黙ってしまった。
「……」
首だけで振り返る。
予想通りの格好で、服部は壁際で蹲る様にして座っていた。
その姿に、物凄い罪悪感が生まれてくるのは。
やっぱり、自己中過ぎた自分が悪いからなんだろう。
「服部」
ゆっくりとソファを立ち、すぐ目の前まで歩み寄る。
声を掛けても、反応は無い。
「勝手に怒って悪かった。一方的過ぎた。謝る。ごめん」
そろそろと片手を伸ばして。
少し硬めの髪に触れ、そのまま優しく撫でてやる。
振り払われるかと思ったけどそれはなく。
けれど、やはり反応は何も返らない。
ひとつ、溜息を吐く。
「今日は……ずっと一緒に居られると思ってたんだ。つーか連休中だし、今日どころか週末まで一緒に居られると思ってて……だから、3時の新幹線で帰るなんて言われて、すっげーショックで……」
しゃがみ込んで。
同じ高さから、物語でも聞かせるようなテンポで語り掛けると。
ゆっくり、服部が顔を上げて。
少しだけ見上げるような瞳が、自分のそれと合った。
「……誰が3時の新幹線で帰る、ゆうたんや」
「え?」
違ったのか?
ぱちぱちと、何度か瞬きをすると。
小さく息を吐くと同時に、呆れている時のそれと同じ瞳がオレを捉える。
「せやからオレの話も聞け、ゆうたのに。お前、黙っとけゆうて、いっこも聞こうとせぇへんし」
撫でていたオレの手を取って。
顔前に下ろしたそれに視線を移すと。
両手で包み込み、ぎゅっと握った。
「ホンマは相性最悪で、やっぱオレ等アカンのかなって。誕生日に喧嘩して、そんで終わるやなんて笑い話やなって……。あっこでお前がそのまま続けたら、終わりにしたろ思っとった」
ぽつり、ぽつり。
続けられる言葉は、相当とんでもない内容で。
やめたオレ万歳とか。
顔色変えない状態で、心中は物凄く穏やかではない。
「思ってた、って事は……それ、やめたって事だよ……な?」
恐る恐る、確認する意味で問い掛けると。
瞳がこちらを向いて、ふ、と笑った。
次の瞬間。
「工藤。旅行の準備せぇ。出掛けんで」
「は?」
手を握ったまま立ち上がられて。
引っ張られるようにして、オレも立ち上がる。
「ほれ、早よう。モタモタしとったら、新幹線乗り遅れてまう」
「え、ちょ、ちょっと……っ!」
ぐいぐいと、引き摺られる様に自分の部屋に連れて行かれて。
何だか分からないまま、強引に荷造りを進められた。
そして気が付けば、渡されたチケットで新幹線に乗っていて。
着いたのは、青森。
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