Special day
服部が部屋に入るのと、その服部を壁に叩き付ける様にして押さえ付けたのは、ほぼ同時くらいだったと思う。
元々大きな瞳が、更に大きく見開かれて。
その瞳には、間近から見据える自分が映る。
「ムードも何も、別に要らねーよな。今日がオレの誕生日だろうが、何だろうが。お前には関係ないんだろ?」
服部が何か答えるより先に唇を塞いで。
続けて耳、首筋と。
弱い所へ次々と唇を這わす。
「……ま、待……って!オレの話も……聞けやっ」
するするとシャツに滑り込ませた手を、脇腹から胸までを撫でる様に滑らせると。
ビクリ、肩を震わせて。
しがみ付く様な形で、服部が身を縮ませた。
「聞いてやるから話せよ」
「こ、こないな状態で……話せるか……っ」
唇も手も。
動きを止める気の無いオレに、強い瞳と声が向けられるが。
その瞳は、強さの裏に、少しだけ悲しさが隠れているようだった。
尤も、オレにはそれが悔しさにしか見えなかった訳だが。
「じゃ、黙ってろ」
一瞬だけ動きを止めて、真正面から見据えた瞳に告げると。
その色に諦めが浮かんで。
そのまま、服部の身体から抵抗が消えた。
「もうええ。好きにせぇや」
言って閉じられた瞳は、どんな表情なのか窺い知れない。
もう一度重ねた唇も、何も語ってはこない。
「……やめた」
半ば突き放すようにして離れて。
そのまま背を向け、近くのソファに腰を下ろす。
背後で、服部がその場に沈む様に座り込む音が聞こえた。
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