XOXO

「……なぁ」
「何や?」

窓際の椅子に腰を下ろし、瞼を伏せながらコーヒーを啜り。
テーブルにカップを置くと、目の前に立つ工藤を服部が見上げた。

「今日のお前……何か……」

見下ろす瞳を、見上げる瞳は真っ直ぐに捉えて。
その中に、何か含みがあるとも思えない。
けれど。

「らしゅうない?」

思ったままを言葉にされて、無言でゆっくりと頷くと。
見上げる瞳が細まった。

「うん、オレも自分でそう思う」

その笑顔は、今日見たどの笑顔よりも可愛く。
抑え続けた愛しさを、溢れさせるには十分で。

「取り敢えず、思いっ切り抱き締めてもいい?」
「どうぞ」

包み込んだ腕の中、くすり小さな笑いが漏れた。
 
「なに?」
「いや……。なんや、付き合い始めたばっかの時みたいやな、て思って」
「オレが?」
「んー」

呟くように答えて。
 背中に廻った腕が、工藤をそっと包み込む。

「手ぇ繋いでええか。抱き締めてええか。キスしてええか……なーんでも訊いてきてたやろ、お前」
「そうだっけ」
「そうや」

 少しだけ抱き締める力を緩めて。
 引いた顔、瞳が重なる。

「じゃあ……キスして……その先もしていい?」

 ぶっ。
 真顔で訊いてくる工藤に、堪え切れず噴き出した服部は。

「好きにせぇや」

ケラケラ笑いながら、ぺしり工藤の額を叩くと。
 その後、再度抱き付いて。
 啄む様に、何度も何度も口付けた。



「つーか、何だってあんならしくねー事やってみようとか思ったワケ?」

チェックアウトを済ませた工藤が、財布を仕舞いながら問い掛ける。

「3倍返ししてもらう、ゆうたやないか。せやから、金の掛かるデートコース考えたったんや。今日もまだまだ彼方此方周るでー」
「金の掛かるデートコースねぇ……」

ご機嫌な様子の服部を見下ろしつつ。
 片手を顎に当てて、工藤がふーん……と視線を逸らす。

「じゃ、バレンタインにかかされた恥の分、コイツに地元で恥かいてもらうか……」
「え?なに?」

 戻された工藤の瞳が、にやりと笑んで。
 服部の手を掴むと。

「楽しいデートにしような」

 言って、ぐいっと思い切り工藤が服部の手を引く。
 勢いが良過ぎて、前のめりになりながら立ち上がった服部を抱き止めて。

「思いっ切り、恋人らしく」
「は?」

 にっこり笑うと。
 工藤はしっかりと腕を服部のそれに絡めて。
 半ば引き摺るようにして歩き出した。

「ちょ、ちょちょちょ……ま、待って!」
「待たない」
「くどーっ」

 服部が暴れるせいで、余計に目立ちつつホテルを出る二人を。
 すれ違う人々が、奇妙なモノを見る目で見ていた。

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