すたあの恋
平次と居た1ヶ月。
深夜、変装してコンビニに着いて行く以外、ほとんど外に出る事はなかったけれど。
それでもずっと楽しかった。
自分の知らない世界を、沢山知っていて、それを話してくれる事。
何の構えも、気取りもなく接してくれる事。
全て嬉しかった。
これが家庭の味と言うものなんだな、と思える食事も食べさせてもらった。
くるくると変わる表情を見ているのも面白かった。
あの時出会ったのが、平次で良かったと。
心からそう思った。
確かに最初は、芸能の事に関して全く分からない、そこに救いを求めていたけれど。
段々とそれは変わっていって。
平次と居る時間が、全て救いになっていた。
ずっと。
ずっと続けば良いと思っていた。
どうせ起きた奇跡なら、このまま醒めないでずっと。
「…ここに居たい」
言った言葉は、返った苦笑いに否定された。
分かっている。
夢は、いつか覚めるものだって。
それでも。
「このまま、芸能人の工藤新一を消して。ずっと、ここで」
僅かに微笑んだような表情で、ゆっくりと平次が首を横に振った。
「…はは。無理だよな。分かってる」
夢をもち続ける事くらいは、きっと自由だろう?
「帰るよ」
「うん」
その時、新一が平次に向けたのは、彼に対しては初めての、芸能人としての笑顔。
一般の世界に居た彼が、消えた瞬間だった。
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