SweetChocolate
「……これ、どーゆー意味?」
家に戻って、貰ったチョコを眺めながらに工藤が呟くと。
「まんま」
疲れているような、不機嫌そうな……どちらとも取れる声色で服部が答える。
チョコに描かれている文字は、”You don't know how much I love you”。
「オレがお前の愛を分かってないって?」
横目に工藤を眺め、無言でいるが。
その瞳は、その通り、と言っているようなモノ。
「試す為にチョコ買わしたと思ってんのか?もしかして」
「ちゃうんかい」
体の向きを工藤の方に向け直して、真っ直ぐに見つめる瞳。
その色は強く、嘘や誤魔化しは許さない、と言った感じだ。
「チョコってしか言ってねーんだから、チロルチョコ1個……いや、最悪5円チョコ1個でもいいってのに、わざわざバレンタイン用のチョコを買おうとしてくれてた。それだけで十分判る。試す必要なんてねーよ」
「……したら何で?何でチョコに拘ったんや」
服部の、弱まる事ない視線を暫しそのまま受けて。
やれやれと息を吐くと、工藤は貰ったチョコに手を伸ばし。
ぱきり、少しだけチョコを割った。
「16世紀、カカオ豆は恋の媚薬として上流階級に広まったんだ。それは……--」
手にしたチョコの欠片を、服部の唇に押し当てて。
開いたそこに、チョコを押し入れながら。
「カカオにオキシトシンが含まれるから」
「オキシトシンて……」
「そ。通称、ラブホルモン。性的興奮を促す成分」
服部がチョコを口内で溶かす様を、満足そうに笑みながらに見て。
ぺろり、指先についた溶けたチョコを舐めとる。
溶けきったチョコを飲み込むと、服部の顔がみるみる赤くなるのが見て取れた。
「チョコはお前からしか受け取らない。つまり。お前としかヤらねぇよって意味。Did you understand?」
「……あ……アホかっ!わけ分からん事しよって!!」
耳まで赤い顔を隠そうと、服部が片腕で顔を隠すように覆う。
ぱき。
工藤は更にチョコを割って、今度は自分の口に含むと。
「好きだろ?暗号。オレを好きな気持ちには負けるだろうけどな」
言って笑い。
顔を隠す邪魔な腕を掴んで退けさせて。
唇を重ねると、互いの舌でそれをゆっくり溶かすように転がす。
口内に広がる、カカオの香りと砂糖の甘さ。
「お前がオレをどんなに愛してるかなんて、自惚れって言われるくらいには自覚してっけど。あのメッセージ、そのままお前に返そうか?」
離した唇で、距離は近いまま。
囁くぐらいの小さな声で訊くと。
「オレも自惚れとるし、要らんなぁ」
細まる瞳と、三日月を描く唇。
「じゃ、食って隠滅しちまわなきゃな」
「……せやなー……」
「けどその前に……--」
三日月を捕らえて塞いで。
深く深く絡まる舌と、互いを求めて絡み付く腕。
ラブホルモンの影響か、単に二人の若さ故なのか。
メッセージチョコの隠滅が実行されたのは、これより大分時間が経った後だった。
「ホワイトデーって、確か3倍返しが相場やったなぁ?えらい無茶させられたからなー……昨日のオレは高いでー?めっちゃ楽しみにしとくわ、工藤君」
日曜日。
帰りの新幹線に乗り込む際の服部の科白。
その表情は飛び切りの笑顔だったが、裏に隠された思いは怖い。
工藤が悩む破目になるのは、また来月。
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