SweetChocolate

「ほれ、好きなん選べや。どーしてもオレからのチョコ欲しいんやろ?どれでも気に入ったもん買うたるで」

当日は月曜日。
当然ながら学校なので、木曜の授業が終わってから東京に向かい、その日は工藤の家にそのまま宿泊。
現在、金曜日。
祝日の真昼間。
居るのは某デパートのバレンタイン特設コーナー。

服部が言うと同時に、周りの視線が工藤に集まるのは必然。
自分だって特異な目で見られると言うのに、服部は1人でかく恥より2人を選んだらしい。
じと目で工藤を見たまま、腕組みしてどっしり構えている。

「覚えとけって、こーゆー事かよ」

周りから聞こえるヒソヒソ声に、ポリポリと指先で頬をかきつつ。
工藤が小さく乾いた笑みを漏らした。

「今更後悔したかて遅いっちゅーんじゃ」

表情を変えないままの服部が呟く。
工藤はゆっくり瞬きをして、深く息を吐くと。

「よし、行くか!」

笑みを見せ、服部の腕を掴むと、自分達を見ている女子をかき分け、ずんずんと奥へと進む。
呆気にとられ、引き摺られる様に後に続いて。
立ち止まった場所には、天井から『本命コーナー』の文字が吊り下がっていた。

「ほ……」
「間違ってねーだろ」

固まっている服部を余所に、棚のチョコレートを選びはじめ、手に取っては戻して、を繰り返している工藤。
問題ない。
言った通り、どうやら周りの視線などお構い無しのようだ。
表情は実に楽しげである。

「お。見ろよアレ。アレがいいな」
「どれ……?」
「アレ」

自分でやっておいて何だが、既にぐったり気味の服部の視線の先、工藤が指差すモノが目に入る。
と同時に、更に疲れが増して来た。

「嘘やろ……」
「何でもいいっつったよな?」

にこやかに言う工藤が選んだモノ。
それは、どでかいオリジナルのハートチョコに、文章を書いてくれるサービス。
ちなみに、入れられる文章は定型文から選択する形式になっている。
それに、プラスして相手の名前が入るのだが。

「ホンマはオレん事嫌いやろ」

そうとしか思えない程の嫌がらせ。
それ以外にどう思えるのか。
そんな愛の言葉が並ぶ定型文。

「嫌いなヤツと、わざわざこんな恥ずかしいマネが出来るかよ」

言ってる顔は、本気かどうか疑わしい。
 けれど実際、注文待ちのお姉さんを含め、周りから大注目を受けているのだから、確かに嫌いは有り得ないだろう。
 しかもここは東京。
 工藤自身が住む街だ。

「どちらのメッセージにされますか?」

 掛かるお姉さんの言葉は、笑いを堪えているのが分かる声。
 恥ずかしさもここまで来ると、いっそどうでも良くなってくるから不思議である。
 頭はすっきりと冷静さを取り戻している。

「で?どのメッセージをオレにくれるワケ?」

 ニコニコかニヤニヤか。
 どっちか判別の難しい表情を向けて、工藤が肩を肘で突いてくる。
 そちらをちらり見て、小さく息を吐くと。

「すんませんけど、自分で字書かせて貰てもええですか?」

 服部は、覚悟を決めた声色でお姉さんに告げると、許可を貰ってずかずかとそちらに乗り込んで。
 すらすらとメッセージを書き込み。

「おおきに。したら包装お願いします」

 告げて、無表情のままに戻ってきた。
 その姿を、メッセージと見比べて、お姉さんが微笑ましく見守っていたが。
 書いたメッセージは、工藤からは全く見えず。
 工藤が怪訝な表情を向けても、服部は表情を変える事も、何かを答える事も無かった。

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