SweetChocolate

「チョコレート、もうお前以外からは絶対受け取らねーから」

そんなメールが来たのはつい先日。
どう返信したものか悩んだまま、今だ返信はしていない。
そして、工藤からもその後はメールが来ていない。

「オレ以外から受け取らんゆわれてもやな……」

日本のバレンタインデーと言えば。
女子が目当ての男子にチョコレートを贈るのが定番。
近年は菓子作りが趣味の男子が、お目当ての女子に手作りスウィーツを贈る事もあるようだが。
それにしたって、バレンタイン商戦真っ只中のチョコレート売り場に、男子の姿などそうそう見当たるものではない。
冷やかしならともかく、購入となれば尚更。
まずお目に掛かる事は無い。

「……無理やろ、コレ……」

女子学生やOLが、楽しげにチョコを選ぶ姿を見ながら。
どうしてもそこに踏み込む勇気は出ず、服部は小さく溜息を吐いて肩を落とした。



「工藤。この間のメールなんやけど……」

断ろうと架けた電話の向こう、弾んだ声が聞こえる。

「うん、楽しみにしてっから」

語尾にハートが付いてるように聞こえるのは、恐らく気のせいでは無いだろう。
断られる、の文字は元々頭の中に無かった、と言う事か。
追撃が無かったのも、どうやらそのせいだ。

「いや……あんな?オレの話ちゃんと聞いて欲しいねやんか?」
「聞いてるって。どうせアレだろ?売り場に女の子しか居なくて入れないとか。大丈夫だって。問題ない」
「何が問題ない、や!他人事や思ってお前……っ」

思わず声が大きくなって、ハッと辺りを見ると、数名の女子が驚いたように服部を見ていた。
目が合って、はは……と乾いた笑いを向けてから、くるり背を向け電話に戻る。

「とにかく!チョコは無理や。他のプレゼントやったら、ゆうてくれたらそれ買うたるから……な?そんでええやろ?」

小声で懇願するように言うが。

「駄目。嫌だ。チョコがいい」

即返された言葉に、本当に泣きたくなって来て。
それと同時に、怒りも込み上げてくる。

「駄々こねとるガキかおのれは!!あー、もうええ!覚えとれよ、ボケ!!」

また大きくなる声に、周りがざわついたが、今度はそれに構わず。
電話を切ると、ムッとした表情のままその場を離れた。
チョコレートは結局買っていない。

そして迎える、バレンタインデー直前の週末。

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